山登り


よたよたと、山登り


    No.102

       

    南アルプス 北岳〜農鳥岳 縦走

         10月11日 火曜日 晴れ 

     朝は仕事がある予定で、10時30分に仙台を出発する予定で居た・・・が、まず、順調に高速に乗って、11時出発だとしても、山梨県の奈良田に着くのは午後の6時頃になってしまう計算でありました・・・これはマズいんでないかい?たぶん山間の辺鄙な所だから缶ビールとか買えないかも知れないし・・・仕事なんかしている場合ではない、と言う事で、7時に高速に乗ったのでありました。
     で、東北道で佐野の手前のジャンクションから北関東自動車道に乗り換え高崎まで行き、高崎から東京方面に向かって関越に乗り換えまして、鶴ヶ島で圏央道に移って八王子まで行き、そこから中央高速に乗って甲府南インターまで行ったのであります・・・ここまで、エコランして5時間弱でありました。
     で、甲府南から国道やら県道やらを通って南アルプス林道の起点、一般車両はここまでよ、と言う、奈良田まで、コンビニで食い物とビールなど買い求めたり、ガソリンを入れたりして約2時間・・・おっさんが到着した時に登山口の広河原行きの最終バスが出る所でありました。
    もっともこれに乗って広河原に行ったとしてもテントが無いので有料山小屋泊まりになっちまう訳で、そんな予算は持ち合わせていない訳です。
    でありますから、明日の始発が朝の八時でとても出遅れるのは分かっていても、今夜はここで車中泊をするしか手は無いのでありました。
    そんな訳で、町営の奈良田温泉にのんびり浸かり、白旗史郎先生の写真館の外観など眺めたり、民俗資料館の外観を眺めたりしてくつろいだのでありました・・・いや、中に入って見たかったんですけれども、入場料が500円もするもんですから、ビンボーなおっさんとしては500円あれば缶ビールのロング缶が買えるという事で遠慮したのでありました。

    早川沿いにへばりつくように作られた奈良田の集落

     さて、バス停のある河原の広場は駐車OKでして、簡易ではありますがトイレも設置されている訳で、そこで泊まったのでバスが車で車の中に居られるとても良い環境なのです。
    しかし、夜はやる事も無いのでサッサと寝ちまいましたから朝は5時頃には目が覚めていた訳ですが、バスは8時にならないと来ないのでゆっくりと朝飯を食って待つのでありました。

     
    広河原からは吊り橋で早川を渡って登山口に行くのです

     さて、広河原に着いてカビョーンでありました。
    おっさんが予定していた最短コースの大樺沢コースで行って、本日のお宿の北岳山荘まで6時間30分な訳です。
    それでも、9時のスタートですから、一生懸命歩いて3時半の予定になる訳です。
    しかし、大樺沢コースが先の台風で通れないと書かれている以上は、時間のかかる白根御池小屋経由の遠回りをしないとダメな訳です。 いや、こちらは山頂経由で8時間20分とコースガイドでは出ているのであります・・・小屋には4時までに到着してくださいね、と宣われているのであります・・・いや、無理だべやぁーと、泣き言を言ってもダメなんでせっせと歩くしか無いのであります・・・日が暮れたらドーしよう、と思わなくも無いんですが、その時は手前の北岳方の小屋へ逃げ込むという事で・・・。

    樹林帯から抜けてやっとアルプスらしい山が見えました(鳳凰三山・薬師岳?)

     いや、はっきり言って飛ばしました・・・抜いた人は数知れず・・・まず、晩秋の平日だというのに流石に人は居るもんで、ビックリです。
    で、最初の目印ポイント白根御池小屋が見えて参りまして、予定よりはナンボか早いなと一安心です。
    ここはとても良いテント場がありまして、山小屋もとても奇麗でありました・・・トイレは寄付金制の立派な水洗トイレでありました・・・勿論しっかり落として身軽になったのは言う間でもありませぬ。

     
    白根御池小屋です・・・小屋の前に20人程も人が居ました。

     小屋を過ぎてすぐから胸突き八丁的な登りがずーーーーっと続いて息は切れ切れになり、もはやこれ以上は頑張れと言われても無理、と泣きが入った所で視界が開け、北岳の山頂がデデーンと見えたのであります・・・手元の高度計で2640メートル、11時54分でありました・・・3時間で1160メートルしか稼いでないのぉ?・・・ホントに大丈夫なのぉ、と弱気になりましたが、行くしか無い訳です。
    いや、快晴なんで暑いくらいでして、いつもは殆ど水を飲まないおっさんがポカリの500を一本飲んじまいました。

    初めて見えた北岳の山頂に感激であります・・・嘘、一寸拍子抜け

     いや、日本で二番目に高い、富士山の次の高山なんでありますが、正直言うとなだらかで、緊張感に欠ける山であるな、と言うのが偽らざる感想でありました。
    まっ、でありますから、高さもあんまし感じさせないと言いますか、何となく、いつもの山と違いが無いような・・・しかし、標高が上がるに連れ息苦しさは増す訳で、ここら辺に3000メートル級の山の格の違いと申しましょうか、そんな物を感じるのであります。

     
    富士山だぁー・・・北岳に登りつつも富士山には負けた感が強いです

     ここで会ったが百年目、と言う訳でもないのですが、ここからはずーーーーっと富士山がおっさんの行く手に着いて廻る訳です。
    いや、昼間はもとより、ひよいと顔を上げるとそこに富士山があり、一峰登ってふと見渡しても富士山がおっさんを見ている訳です。
    朝と言わず夕暮れと言わず、富士山が見えている訳で、最初に感じた感動とありがた味は中盤以降相当薄れたのは否めない事実なのであります。
    それだけ好天が続いたという事なのでありますが、好天で見たからかも知れませぬが、富士山がとても女性的に見えたのはおっさんが変態的であるからなのでありましょうか?
    いや、雄々しい富士、と言うよりも、たおやかな富士でありまして、福与かさを感じたのであります・・・まっ、雪を抱いていなかったからだと思うのですが。

    北岳肩の小屋と北岳山頂です。

     3000メートルまで来ると森林限界はもとより、ハイマツなどの灌木帯も抜けて岩だけの世界になる訳です。
    ライチョウが居たんでありますが、あれは以前に登った剣岳で、とても大きなウズラである事が判明しているので写真は撮らなかったのです・・・いや、ホントの事を言うと、未だ子供だったのでチョロチョロして撮れないんであります。
    そんなこんなしつつ、喘ぎながら広い所に出たら、北岳肩の小屋の前でありました・・・何も喰わずに来たのでここで軽く喰おうと、本日最初の腰を下ろしての休憩であります。
    で、ソイビーンズなど喰いながら小屋の方を見ていたら、何やらめんこい娘っ子が居るではないですか・・・こりゃぁご挨拶しなくちゃ、と言う事で、丁度飲みたかったポカリのペッドトル、500ミリリットル400円なりを買い求めたのでありました・・・いや、こんな山の中でナニが楽しくてあたら青春を無駄にしているのか?・・・娘さんよく聞けよ、山おやじにゃ惚れるなょ・・・まっ、その心配は皆無か?

     
    北岳の山頂に立つおっさん

     いや、船形山のブナを守る会の会長と沢登りに言った際に「北岳には山ガールが湧いて出る」と聞かされていた訳で、このたびの山行の目的は、それの真偽を判定するのも目的の一つであった訳です・・・が、小関会長の言葉に偽りは無かったのであります。
    腰蓑のようなスカートの下にタイツをはき、カラフルなアウターに小じゃれた帽子にサングラス・・・ザックには小さなぬいぐるみなんかぶら下げて・・・サングラスと帽子で顔が判別できないのがまた良いのでありましょう・・・知らぬが仏です。
    で、おっさんはと申しますと、東北の山では一年中ジャージにTシャツで登っている訳ですが、ナンたって山ガールが出るかもしれない南アルプスは北岳に行くんでありますから、一張羅を着込んで出向いた訳であります・・・ドーです、様になってるでしょ?
    で、山ガールも単独だったのでカメラのシャッターをお願いしようと思った所に、山兄ちゃんがニコニコ顔で近寄って来て「シャッター押しましょうか?」と来たもんであります・・・まっ、風下で山ガールのほのかな香りも楽しんだ事だし、ここは一つ山兄ちゃん厚意に甘えて撮ったもらった次第であります・・・上手いんだこれが。
    山頂は3時でありました・・・最早ここまで来れば北岳山荘に4時到着は間違いない訳で、本日初めて心から南アルプスの山並みを堪能した訳です。
    いや、向かいには仙丈ヶ岳、その隣に凛々しい甲斐駒ヶ岳・・・あっちには塩見岳の勇士が・・・後は良く分からない。
    まず、南アルプスは山が大きくて深いんであります・・・ずーーーーっと向こうまで山また山で、そして、富士山が漏れなく着いて廻るのであります。

    北岳山荘へ向かいながら北岳山頂を振り返る

     心に余裕があると景色も違って見えるのか、先ほどまで大して感動もしていなかった北岳の姿がとても雄大で迫力のある岩山に見えたのであります・・・方角が違いますからね。
    それでも、今自分があそこに立っていたのか、と思うと一寸感激モノでありました。
    で、北岳山荘には3時30分到着でありました。
    受付で7900円の宿泊費と500円の缶ビール代を支払って部屋へ行くと・・・本日は9人部屋に7人という事でまずまず余裕でありました。
    いや、総員で20名程度の宿泊なんでありますがシーズンも末期という事で部屋を限って使っているので結果的にそれなりに詰め込まれるのだそうであります。
    それでも、数日前の連休時には布団一枚に3名が寝たのだそうで、身動きならない状態であったとか・・・いや、泊まりたいと言うから泊めているんだもん、客の要望なんだもん、と小屋側は言うかも知れませんが、そこまで行くと殆ど拷問になる訳で、朝のトイレの順番待ちとか、考えただけでおっさんは死にそうであります。
    で、小屋の晩飯なんかはとても普通に食べられるおいしい食事でありました・・・コーヒーとかつまみとかとても豊富ですし。
    で、北岳山荘の特筆すべき物は・・・トイレです・・・バイオトイレでありまして(最後は汲み取りするが循環式)無臭の水洗トイレであります。
    おっさんは、じっくり腰を落ち着けて用を足す事が出来たのが、食い物の味よりも百倍嬉しかったのであります。
    いや、朝飯なんか豪華過ぎ・・・塩鯖二切れ、鴨肉の薫製スライス三切れ、海苔、大盛りの湯でキャベツ、ウィンナーを撒いた小さなオムレツ二ケ・・・お茶とみそ汁とご飯は喰い放題・・・いや、晩飯より豪華な朝飯は、山を知り尽くした人の考えとして最高であります。

    北岳山荘を見下ろし、明日歩く農鳥岳への稜線を見る

     と、言う事で、基本的には快適なはずの山小屋なんでありますが、両隣に鼾の大将を抱えちまいまして、ステレオで攻め込まれたのは誤算でありました・・・いや、音の違いとハーモニーは凄まじい物でありまして、8時の消灯からうとうとしつつも、気がつけば富士山の脇から朝日が昇り始めていた訳で、いや、巡り合わせの悪さには参りました。

    夜明け前から起きていたので絶景を見逃しませんでした。

     おいしい朝飯を食い身支度を整え、快適なトイレで身軽になって出発したのは7時少し前でありました・・・(朝飯喰わずに早立ちも多かったです)
    で、北岳山荘から間の岳(あいのだけ)まで行って戻って広河原へ下山というのがノーマルコースのようでありまして、間の岳までは人が居るのであります・・・先日の山ガールもおっさんのすぐ後を歩いておりました。
    まだちょっとアレなのにサングラスなど掛けておりまして・・・流石に山ガールであるなぁ、と・・・足下見えんのかな?

    中白根山(3055メートル)へ登りつつ北岳山荘を振り返る。

     ほんじつも多分快晴の模様・・・しかし、風邪が強い・・・しかも南風・・・と、言う事は、日本海側にただならぬ動きがあると言う事で、明日まで持ってくれれば良いが・・・何故なら、明日の下山路は沢沿いなんであります。
    などと言うことを考えつつ、カッパを羽織って出発したんでありますが、これがまた気温が低く無いんで(朝は0度で8時10度)脱げば寒く、着れば暑いと、悩ましい訳です。
    で、北岳で3000メートルを超えてからはずーっと森林限界の上なので石と岩しか無い訳です。
    しかも、本日の道は岩と言うよりもガレ場とザレ場の混合でありまして、足下は良く無いのであります・・・岩なら岩で決めて欲しいのでありますが。

    また富士山が出ましたが、未だ朝日を背負って雲海が奇麗なので撮っちまいました。

     小屋から出て1時間半程で本日の行程中の最高峰「間の岳」に到着であります・・・しかし、昨日に比べると足が重く前に出ません。
    後から着いて来ている山ガールさえぶっ千切れず、昨日は軽く「お先にぃー」といなした二人組も引き離す事が出来ない訳です・・・いや、本日は時間的には余裕ですが、もしも予定より早く降りられたら一気に下って帰っちまうか、などと目論んでも居た訳です・・・しかし、この足では無理だなと、間の岳を登って諦めました。
    で、道がザレ場でとても不安定で、下りに弱いおっさんをよりいっそう苦しめる訳です。
    人に出会うのはここまでで、ここから本日のお宿の大門沢小屋までは誰にも会わなかったんであります。
    ところで、間の岳が日本で第4位の標高である事はご存知でありましたか? 富士山・北岳・奥穂高岳・間の岳の順であります。

    本日の行程の最高峰 間の岳 3189.3メートル

     いや、空は晴れて来まして気温も上がりカッパも脱いで服装は軽いんでありますが、足が重くて前に出ないんであります・・・登りなんか尺取り虫状態であります。
    いや、思い出しました・・・おっさん、つい先日までジンマシンと不調で臥せっていて、殆ど運動らしい事もしていなかった訳です・・・衰えているのでありますね。
    初日はナントカ気合でごましましたが、本日はもうダメであります・・・まっ、小屋に3時着としても7時の出発からで8時間の行動時間が取れる訳で、コースタイムの8時間20分で行けばよい訳ですから、なんとかなるでしょ、と。

    こんな感じのアップダウンが続くんでありますが、岩なら岩で決めてくれよ、と。

     さて、風裏に入るとポカポカと良い感じの日だまりがありまして本日一発目の休息を取る事にしました・・・3時間以上は歩き続けているのでありますが、なんと言っても尺取り虫でありますから、予定よりも全然進んでいないのであります。
    で、ドーすっかなぁ?コンロ出して暖かい物を飲んでカップラーメンでも喰ってみるかなぁ?と思ったんでありますが、結局はソイジョイを一本とアミノバイタルで終わりにしちまいました・・・面倒なのよりも時間がもったいなくて。

    これから行く農鳥岳方向です。

     北岳の近くでは、鳳凰三山や甲斐駒ヶ岳と仙丈ヶ岳の眺めが圧倒的に迫っていた訳ですが間ノ岳を越してからは塩見岳の存在が際立ってくるのであります。
    早い話が、登りたくなっちまうと言いますか、見ていると惚れちまうタイプの山容なのであります・・・しかし、それにしても山が深い。
    そんな訳で軽い休憩を取って西農鳥岳への登りに掛かったんでありますが、これがまた締まりの無いガレ場とザレ場でありまして、登りは良いんですけれども、小さなアップダウンを超えて下るのが厄介なのであります。
    元々下りが下手で苦手なおっさんは余計にスピードダウンでありました。

    南アルプスの一部は私企業の所有なんですね

     いや、立派な道標の用な物があったのでなんだろう?と読んでみると、なんとぉー・・・農鳥岳周辺は特殊東海製紙社有林と書いてあるではありませんか。
    うひゃぁー、おっさんはてっきり日本国の所有地であると思い、納税の義務を果たしている身としては大手を振って歩いていたのでありますが、これが他人様の山を登らせて頂いていると分かっちまうと、恐縮しごくであります。
    で、気が小さいもんですから恐縮したと同時に久しぶりにモヨオしちまった訳です・・・折しも風裏で絶好のロケーション・・・前後に人影は無い。
    と、言う事で、気持ち岩陰に入り、南アルプスに残す記念の一捻りであります・・・いや、おっさんも遂に3000メートルの高所雉子撃ちの記録を持ったのであります。

    稜線からの下降点の印です。

     さて、一捻りしたので身は軽くなったのでありますが反対に足取りは益々重くなり、登山地図のコースタイムよりもナンボか遅れだしている始末であります。
    おっさんの自分の予定では登山地図のコースタイムの8掛けが、休息を含むだいたいの目安なんでありますが、本日はドーもダメであります。
    まっ、しかし、ゆっくり歩いているので汗も殆どかきませんし、頻繁に立ち止まるので景色もいつに無く眺めている訳で、日没と追いかけっこにでもならない限りは本日はこれで良い事にしようと、完全諦め、開き直ってトボトボと歩いたのでありました。
    で、だらだらした3000メートルにしてはだだっ広い締まりの無い稜線を歩いて行くと、噂に聞く鐘のぶら下がった下降点の標識が見えた訳です。
    近寄ってみるとプレートに、この地で下降点を発見できずに力つきた若者の事が書かれていた訳です・・・うん、GPSの無い時代に吹雪かれたらピンポイントの下降点は見つからないだろうな、と・・・単独で厳冬期にここに挑むんですから、それなりの人だったんでありましょう。

    2700メートルまで下って灌木帯に入り、色の着いた植物を発見。

     3000メートルの稜線上は岩だけでありました。
    で、2800程度ではハイマツが見られるんですけれども、それでも風の当たる側には無く、東北の緑の山を見慣れているおっさんには荒涼として見える訳です。
    下降点から急坂を下り、ハイマツ帯を抜け、最初に目に入った灌木がひねたダケカンバでありましたが、その木がナンだかとても懐かしくて、気持ちが緩むのを感じたのでありました。
    しかし、ガイドブックにも急ですからね、と書かれているんですけれども、間違いなく急でありまして、それが東北の山みたいに土の道じゃないので勝手が違い歩き難いのであります・・・なんと申しましょうか、砕いた岩の上に砂利を敷き詰めてとでも申しましょうか・・・まっ、ズリズリと滑ります。
    で、この道は北岳方面のルートから比べると歩く人も少ないのだろうな、と、そこはかとない哀感の漂う道でありまして、おっさんが勝手に値踏みすると、通好みのルートであるなと思う訳であります。

    大門沢小屋の内部・・・寝所であります。

     下降点からはひたすら下り一方でありまして、そうですねぇ、飯豊の早川尾根の下りの二割増しの感じとでも申しましょうか・・・段差が多いんですね。
    で、登りの途中で時間切れなのか体力切れなのか分かりませんがちょっとしたスペースにはビバークの後と思しき痕跡が見られ、この道を登りに使うのは手練の者にしか許されないだろうな、と思ったのであります・・・いや、おっさんの当初の計画ではこのルートをテントを担いで登るはずだったんであります・・・止めて良かった、と。

     そんなこんなを考えながら下って来ると沢の音が大きく聞こえるようになり、程なくして大門沢小屋に到着でありました・・・3時でありました。
    北岳山荘を6時40分の出発で3時到着・・・8時間と20分を要した訳でありますが、コースタイムにピッタシでありまして、まあ、この体調にしてはまずまず、歩き通しただけでも偉い、と言う感じであります。
    ホントーは今日中に下っちまう事も考えていたので小屋への予約はしていなかったんでありますが、途中でも携帯は繋がらず、予約なしで飛び込みになっちまいました・・・人は良さそうですが無愛想なおっさんが面倒臭そうに受付をして、宿代の7500円とビールの500円で8000円を支払ったのでありました。
    いや、大門沢小屋はどこもかしこも時代を感じさせる、古き良き時代の小屋でありまして、オヤジの無愛想なのは未だ御愛嬌で、建物・トイレ・寝具の施設的な物は、外観に違わず古き良き時代を彷彿とさせる物でありました・・・良くも悪くもです。
    いや、トイレだけは都会の人はダメかも知れませぬ・・・それが証拠に、少し離れた所に雉子撃ちとお花摘みの跡がそこかしこでありました・・・トイレよりは野原が安全と・・・。
    で、北岳山荘と比べる意味も無いのでありますが、食事もアレでして・・・いや、明日、明後日にも小屋終いなので食材なんかも整理してあるのかも知れませんが、質素でありました。
    晩飯が、小さなヤマメの甘露煮とワラビの漬け物とお椀に一杯のうどんとコゴミの胡麻和えにどんぶり飯・・・飯のお代わりは自由。
    朝飯が、味付け海苔に生卵、小梅干しと、漬け物にみそ汁とどんぶり飯・・・飯のお代わりは自由、でありました。
    いや、一汁一菜を地で行くとてもまじめな食事で、おっさんは嫌いじゃないんですが、せめて、生卵は卵焼きにするなどの手が加えられていたら少しは感動したんですけれども・・・。
    で、寝具に掛け布団は無く、毛布が三枚なんでありますが、外気温は0度まで下がって人に因っては寒くて寝られないかもしれない・・・現実に下から登って来た二人組の片割れが寒くて寝られなかったと申しておりました・・・いや、おっさんは東北人なんで寒さには強いし、股引はいてフリース着て、その上にダウまで着て寝ましたから何ともなかったんですけれども。

    大門沢小屋の朝焼けと富士山です

     さて、晩飯が5時半で、消灯が8時・・・やる事も無いので寝るしか無いんですが、夜になってヘッ電を灯してトイレに行くのは危険かも知れません。
    板が二枚渡しただけで下が素通しの奈落の底には、高く積み上がったナニがある訳で、人がすっぽりと落ちるのに十分な穴をまたぐ時には岩場の垂壁を登るよりも緊張した・・・いや、サンダルを履いて行ったんで、子供の頃にポットン便所に片足だけ落として叱られた記憶などよみがえっちまったのであります。
    なので、見なきゃ良いのに下も見ちまいましたし・・・いや、風通しが良いので臭気は籠らず、腰を下ろせば割と落ち着きますが・・・。

    大門沢小屋のおやじの手作りの橋でしょうか?有り難いです。

     そんな訳で熟睡して目覚めた翌日、朝飯を食って、6時20分に出発です・・・本日は奈良田まで下って温泉に入って帰るだけ・・・登りは基本的に無し、と、気楽であります・・・朝は快晴でしたが東の空の朝焼けと富士山に掛かるレンズ雲・・・これは割と早く崩れるかな、と。
    小屋のおやじに出発の挨拶をしたんですが「気をつけて」と言った一声の時の笑顔は良い顔でありました・・・ナンだか癖になりそうな小屋です。
    で、大きな沢沿いに下って行くんでありますが、9月12日頃の大雨で登山道はズタズタにされたらしく、随所に応急の補修の跡など見られる訳です。
    しかし、シーズンも終わり頃で人手が無かったのか、一部では道が分からなくなっていたり、徒渉点が判別しなかったり、また、渡るのは分かっているんだけれどもドボンせずに渡るには難儀する場所などもあり、やっぱしこのルートは通好みであるな、と思うのであります。

    ペンキ印のついた岩なども流されて無いので地図と勘で行く訳です。

     で、だいぶ分かりやすくなってから赤布が出て来て道案内してくれるようになったのはご愛嬌であります。
    基本的には岩と石の混じった道を降り続け、標高が1300程度で、東北の山みたいな土の道になり、ツガの大木や時にはブナの大木なども見られるようになり、立派な吊り橋を3つ渡ったら立派な林道に飛び出しました。
    本日も足は重く、コースタイムとぴったり出歩くのが精一杯でありました・・・ここから1時間舗装道路をテクテク歩いて車に着いたのが10時丁度でありました。

     奈良田温泉で汗を流し、蕎麦とほうとうなど喰って一路仙台まで・・・これが結構遠いんだよね。



        この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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