山登り


よたよたと、山登り


    No.106

       

    船形連峰 前船形山

         04月7〜8日 土〜日 曜日 雪〜雲 

     

    山登りは 煙い


     久しぶりに千葉B氏を隊長とする「罰当たり組」が徒党を組んだ訳であります・・・不埒な計画をもって。
    狙い目は・・・雪に埋もれる鈴沼と鏡ヶ池を探索し、あわよくば前船形を登っちまおうというものでありました。
    で、宿泊は、大滝キャンプ場にあるバンガローを当てにして行った訳です。
    いや、昨秋、まだ車が入れる時期に薪などは荷揚げされている訳でして、準備は万端なはずでありました・・・か゛?

    曇りなんですが歩くと暑くて衣類調整で一本

     毎度の事なんでありますが千葉隊長の立案にはとても沢山のエスケープルートと言いますか、特約事項と言いますか・・・まっ、事前の言い訳とでも申しましょうか、様々な事変を想定して逃げが打ってある訳です。
    例えば・・・この度の計画の目玉は「前船形から見るモルゲンロート」でありましたが、朝起きて様子を見て日の出が拝めないようなら中止、とか、二日酔いで起きられなかったら中止とか。

    千葉B氏の雉子打ちでは無く、雪の上の「かりんとう」です。

     さて、本日の目的地は大滝キャンプ場まででありまして、升沢コースを19番と20番の間頃まで行き、そこから花染山の稜線の頭を狙うように行き、千本松山の下を巻くように進み、保野川を渡れる所の見当をつけ、目出度く大滝キャンプ場に出る、と言うコースであります。
    距離にしても4〜5キロしか無い訳で、鼻歌まじりに歩いても3時間もあれば楽勝と言う予定でありました。
    しかし、計画が外部に漏れた所、諸先輩から様々な警告が発せられたのでありまして、隊長以下、全員が褌を締め直したのでありました・・・いや、女性も二名居たのでこの場合は、パンツのゴムを絞めたのでありますが・・・。
    で、一番多い注意は、保野川の徒渉が非常に困難である、と言うモノでありました。
    現実に、おっさんは12月の積雪期に林道から登って来て小屋を確認し、千本松山から三光の宮経由で升沢キャンプ場に戻ろうと計画してやって来た訳ですが、保野川の崖的な斜面を降りる事が出来ずに断念したのでありました。
    その現実も踏まえ、装備の中には補助ザイル、ハーネス、カラビナ、スリング、アイゼンとピッケルは全員装備、と言う完璧の装備で望んだ訳です。
    そんな訳で、結構な重装備を背負い升沢キャンプ場を9時50分と言う出発時間も手伝って、ブナ平で簡単な昼飯をとった頃には既に12時半になっていたのでありました。
    いや、昨晩からの深雪がたっぷりあってとても四月の春山とは思えない様子でありまして、深い所では膝程度のラッセルを強いられ、一時軽く吹雪いた時には気温もがくんと下がり思ったより大変な事になっていた訳であります。

     
    <まさか? でも? あれっ? ええっ? 

     ブナ平から千本松山方向へは殆ど下りでありましてラッセルも深いんですけれども結構なペースで進んだのであります。
    先頭は、脚の長さからは想像できないストロークでガシガシとラッセルして進むM氏でありまして、それに、千葉隊長が地図とコンパスで方向を定め、誠に適当に「だいたいそっちだねぇ」と方向を決める訳であります。
    で、M氏は谷とか沢とかはあまり気にならない方でありまして、どちらかと言うと真っ直ぐが好きなようで、アップダウンはものともせず、ガシガシ行く訳であります。
    しかし、そこはやっぱし生身の人間でありますから時には息切れもする訳で、そうすると後に控えている千葉S氏がラッセルに廻る訳です。
    で、その後は、若手のS氏が、と、おっさんと紅二点の女性の三人だけがラッセルをする事も無くしっかりと後から着いて行ったのでありました。
    さて、懸案の保野川徒渉点でありますが、今年の大雪ですっかり埋まってしまいまして、何事も無いどころか、それが保野川である事を認めるのに躊躇する程に拍子抜けだったのであります。
    ありゃぁ、担いで来た重装備は・・・いや、備えあれば憂い無し・・・隊長のザックには無用のザイルが・・・いや、前船登頂でザイルを結ぶか?
    そんな訳で呆気なく、14時丁度に大滝キャンプ場到着でありました。

     
    倒木の下に屋根のてっぺんと思しき形が・・・

     さて、間違いなくここなんでありますが辺りの様子は夏場とは一変しておりまして、何処だか解らないのであります。
    いや、何処もかしこも平でありまして、小屋の屋根とか、水場の屋根とか、それらの突起物であるはずの物が何も無いのであります。

    雪の原に、饅頭のような盛り上がり・・・まさか?

     で、間違いなくアソコだと思う場所は、雪が盛り上がって「雪見大福」になっている訳です・・・アレが小屋だとすると、位置から考えると、倒木に埋もれているのが目指す方の小屋か?と。
    と、言う事で近づいてみると、先日の爆弾低気圧の風で倒されたと思しき太いブナの倒木の下敷きになって小屋があったのであります。

     
    入り口は完全に雪ノ下・・・掘り出す闘志に火が着いた!!!

       いや、一同唖然であります・・・全員の脳裏に「今夜は何処で寝るのか?」が過ったはずであります。
    まず、誰が見てもブナの大木の直撃を受けた小屋が無事であるとは思えなかった訳ですが、近づいて観察すれば、なんとなく潰れては居なさそうな。
    で、あっちの小屋は?と言う声が上がったんでありますが、向こうは前の偵察で痛みと言いますか汚れ具合と言いますか、とても使える状態では無い事を確認してある訳で、まず、無事を信じて掘り出そうと言う事になった訳であります。

    人の姿は雪面よりずっと下で、ドアの外は雪の壁であります。

     いや、人間力と言うのは侮り難い物であります・・・一目見た時には相当な苦労を強いられると思った穴堀なんですけれども、やってみたら意外とあっさり片がついちまいまして、一時間程度で取り敢えずの入り口確保は出来ちまった訳であります。
    まっ、その後千葉S氏と若手S氏が階段にデコレーションなど施すなどの小細工には後0分程を要したのでありますが、しかし、小屋に痛みは無く内部には大した雪の入り込みも見られず、まずは寝られるぞ、と、一同ほっとしたのでありました。

     さて、本日のハイライトはここからでありまして、小屋に備え付けのいろりで焚き火をするべく薪など荷揚げしてある訳です。
    コレで寒く無いぞと、悠々と構えていたんでありますが、火を熾してみれば・・・そりゃぁ火が燃えるんですから温かいんですけれども、煙が半端じゃない訳です。
    で、焚けば焚く程酷くなる訳でして、若手S氏はめから流れる涙が止まらないと言う事で小屋の中に入れないのであります。
    それは食事の時間でも衰える事無く燻し続けられた訳で、若手S氏は短くも無い人生の中で2番目程度に辛い夜であったと、後に感想を漏らしていたのでありました。
    で、この度「罰当たり組」の泊まりの山行に始めて参加した紅二点の一人、K女子もポケットティッシュを全部使い果たす程に涙と鼻水にまみれちまった訳です。
    彼女は泊まりの山行そのものが初めてであり、山小屋とはこれほどまでに過酷な環境である物かと愕然としたと言い、雪山の恐ろしさは吹雪などではなく、山小屋で煙に燻される事であるなと感想を述べていたのでありました。
    いや、こんな小屋は滅多に無いと言うよりも、此処にしか無いので安心して下さいと説明申し上げたのは言うまでもない事でありますが・・・手遅れか?

     さて、燻されながらも楽しい食事・・・黒毛和牛の焼き肉やら、寄せ鍋やら、餃子やら、ラーメンやら・・・食いました、呑みました、で、千葉隊長が翌朝3時半起床を宣言して就寝したのは、まだ9時前でありました。

    意外にも凍っていない鈴沼です

     おっさんは3時半に起きました・・・いや、一番年上なんでトイレが近いもんですから入り口に寝かせてもらったんで、静かに外に出てみた訳です。
    まず、天を仰いで、あっちゃぁー・・・で、ありまして、雪模様な上に稜線では風が鳴っている訳であります・・・ダメだな、と。
    そんな訳で、おっさんのガタゴトで目を覚ました千葉隊長に「ダメだね、もう一回寝るっちゃわ」と述べて寝袋に潜り込んだのでありました。

     で、皆が起きてからも雪模様に代わりは無く、千葉隊長から本日の前船形山山頂アタック中止が正式に継げられた訳であります。
    そうと決まれば残された案は、鈴沼散策と鏡ヶ池散策であります。
    そんなもんですから、のんびり、もたもたして小屋を出たのが9時でありました。

     
    鈴沼を周遊して鏡ヶ池へ向かう

     鈴沼から眺める前船形山は近いのですけれども、南東側の斜面から直登はとても無理で、東側の尾根から登るか、真っ当に夏道ルートを採るか?
    まっ、順当に夏道ルートが良いと思いますが、東向きの稜線には全て雪庇張り出しており何となく厳しそうでありました。
    また夏道ルートの尾根も傾斜は急で、積雪の多い今年は標高差の割には難儀しそうな気配が濃厚でありました。

    鏡池の手前1200のピークから前船山頂を眺める

     さて、鈴沼から鏡ヶ池へは800メートル程度、高低差でも200メートルと舐めて掛かったんでありますが、これもまたラッセルが深いのでありました。
    池に近くなるに従い船形本山からの吹き下ろしが溜まるのか、吹き溜まりも多く、スノーシューのラッセルと特に酷そうでありました。
    まず、標準で膝までのラッセルで、吹き溜まりでは股下まで来る訳で、いかに交代でとは言え難儀しました・・・いや、交代だから行けた訳で単独なら止めてます。

     
    雪に埋まる鏡ヶ池。

     思いの外絞られつつたどり着いた鏡ヶ池は完全に雪に埋まっていました。
    流れ込みが明確な鈴沼は凍らないけれども、水の動かない鏡ヶ池は凍ると言う事なんでありましょうか?
    で、おっさんの写真では不明瞭なんでありますが、船形山の山頂から北の1400メートルのピークへ向かう稜線が見事なのであります。
    急な斜面には樹木も無く、南屏風の斜面に良くにて迫力満点であります。
    いや、多分雪崩れるんだろうと思いますけれども、ボードの人には堪えられない斜面じゃないかと思うんであります・・・しかし、辺鄙すぎますか?

     行動時間は帰り道の事を鑑みても11時まで、と決められている訳で、10時半に1200のピークに居たのでは前船の山頂は間に合わないのであります。
    この頃になっては雪も小降りで風も納まって、行けない条件では無くなったのでありました。
    山頂まで、距離600メートル、標高差120メートル・・・ラッセルにもよりますが、推定で40分・・・ああ、勿体ない、と。
    しかし、アイゼンもピッケルも持たずに散策に出た訳でありますから諦めるしか無い訳であります・・・それにしても残念、と。

     そんな訳で小屋に戻り、千葉B氏とY女子の力作である「餅ピザ」で昼飯をいただき、来た時よりもキレイにして帰る、で、小屋掃除などして出発したのが午後2時でありました。

    帰り道、妙な雪の盛り上がりに気付くと、水場の屋根でありました

     帰り道は昨日のトレースを辿って・・・いいえ、トンでも無い、トレースは微かな痕跡を残すのみで殆ど新しいラッセツでありました。
    いやぁ、4月だと言うのに一晩で30〜40センチ以上も降りましたかぁ・・・いや、参りました。

    晴れた・・・保野川の登り(帰り道の花染側)

     で、先日の爆弾低気圧で倒れた太いブナやらヒメコマツなどの痛々しい姿を眺めながら、千本松山の下をかわし、花染山の稜線の尾を踏むように登り返し、升沢コースの20番付近に出て、後は何時ものように「帰りたくねぇっすなぁ」とか、「次はブナ平の宴会のデポだっちゃぁ」など、三々五々、旗坂キャンプ場まで下ったのでありました・・・16時05分着。


        この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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