写真入り・山日記

    

      ツーリング登山 五葉山



      8月22日〜23日 水〜木 曜日 天下無敵の晴れ



                                   
 ツーリング登山と言うのは何度かやっている訳ですが、お泊まり山行と言うのは滅多にやらないのであります。
いや、昨年はバイクを買った嬉しさを起爆剤にして北海道をツーリング登山して廻った訳ですが、正直に言うとアレは辛いものでありました。
いや、楽しいんですよ・・・基本的には楽しいんでありますが、枝葉の部分ではとても辛いものがありまして、どちらかと言うと「修行」の様であったかも知れない部分が多々伺えちまう訳であります。
と、言う事で、お泊まり付きのツーリング登山には二の足を踏んじまっていた訳ですが、この度はお日柄も良く、日本国の発展と平和を願って、岩手県は北上山地の五葉山へと出掛けてみた次第であります。


    前説おしまい。




登山口の杖がお山の性格を物語っていると思いましたが・・・

 ホントの事を言うと、無料で泊まれる山小屋を利用して三陸沿岸をツーリングすれば費用が安く済むと言う目論見から五葉山を目指した訳です。
なのでドーしても五葉山に登りたかった訳でもなく、行かなくちゃならない確固たる理由も無かったのであります・・・が、行っちまった訳です。
で、あんまし早く山小屋に着いても仕方が無いし、途中観光をすると言ってもそう言う気持ちも全くないし・・・ンじゃぁのんびりの出発で、と、8時過ぎに家を出た次第でありました。

   大和町から国道四号に出てひたすら北上し、水沢から山方向に曲がるルートでありました。
炎天下でありましてバイクが止まると灼熱地獄の刑に処せられた餓鬼よろしく、ヘルメットの脇からツツーっと汗など流れたりするもおかし、でありました。
そんな訳で走行距離にしたら190キロと大した事も無かったんですけれども、登山口に辿り着いた時にはヘロヘロでありました。


赤坂峠の登山口には立派な水洗トイレがありました

 峠でバイクを降り一休みしたい所でありますが豈図らんや日陰がありませぬ・・・確かにトイレは屋根が在って日陰ではあるのだけれども、いや、中は涼しいし清潔なんですけれども、そこにへたり込むと言うのもナニであるな、と言う事でさっさと歩き出す事に。
登山口には登山届け提出の箱があり、取り敢えずおっさんも記入した訳ですが・・・ほぉー本日も随分登っているんでありますね、と。


山の中で一寸荒涼とした雰囲気に出会せば、そこは間違いなく「賽の河原」であります

 歩き始めて直ぐ、五葉山の登山道は手入れが凄いなと感心した次第であります・・・刈り払いもですが道の保全にもの凄い気が配られているなと感じた次第であります。 そしてそれはズーッと山頂まで途切れる事無く続いている訳で、地元の有志がどれ程この山へ愛着を持って接しているのか、そして手を掛けているのかが伺えるのでありました。
なので登山道はとても歩きやすく、どちらかと言うと登り勾配の少しきついハイキングコースと言う趣であります。


土嚢で雨水の流れを変え登山道がえぐられるのを防いでいました

   登山地図の解説に因りますと山小屋「石楠花荘」までが1時間と25分であります。
おっさんに取ってその距離は正直に申し上げて「屁」であります・・・が、本日はナンだかとても苦しいのでありました。
いや、三歩進んで二歩下がると言いますか・・・まっ、下がる事は無いんですけれども、少し歩くと苦しくて立ち止まっちまう訳であります。
で、立ち止まって項垂れていると顎の先からツトツトと途切れる事無く汗が滴り落ちる訳です・・・乾いた地面に染み込む汗をじーっと見つめつつ「やんだぐなったはぁ〜」と、溜息などついてしまうのでありました。

 登山道が密な雑木に囲まれ風が通らないのも熱さの原因の一つでありましょうか、とにかく暑いのであります。
それでも、雑木やら灌木でも日陰を作ってくれる訳で、剥き出しの太陽に照らされる炎天下を歩くよりはナンボも良いのであります。
しかし、風光明媚で見通しが利く所も多く、そこはお天道様との相性も抜群に良い訳で逃げも隠れも出来ずに脳天から焼き尽くされそうになる訳であります。

 水を呑みました・・・普段はあまり水を欲しないおっさんが僅か二時間足らずの間に手持ちの一リットルを全部呑んじまったのであります。
頭から姉さん被りにしていたタオルを時折絞ると、ジャァーと音を立てて水が絞り出される始末であります・・・いや、コレホントですから。

 這々の体と言うのはこの事か? バテルと言うのはこの事か? 参ったと言うのはこの事であるな・・・いやぁ、やっと辿り着いたぞ、と。
約二時間、もはや倒れ込むのも時間の問題と言う所まで追い込まれ、やっとの思いで辿り着いた「石楠花山荘」は、正に、賽の河原の先で、地獄に仏の心境でありました。
いや、たぶん、相当に体調も良く無いんでありますよ・・・こんなにヘロヘロなんて前代未聞ですもん・・・荷物もそんなに重く無いし。


木々の間から石楠花山荘が見えた時の嬉しさは筆舌に尽くし難いものでありました

 小屋に辿り着くなりザックを放り投げて直ぐ傍の水場へ走りました・・・やっぱし渇水なんでありましょうか? 山小屋案内書では滔々と水が出ているとなっていた水場は、細い水流で、チョロチョロと表現したくなっちまう勢いでありました。
しかし、それでも切れるように冷たい水は、口に含むと甘露でありました・・・ペットボトルに汲んでは、クビグビと音を立てて飲み続けるのでありました。
いや、ザックには缶ビールが二本、氷入りで冷えている訳で、普段のおっさんならビールが拙くなる水なんか見向きもしない訳でありますが、この度ばかりはビールよりも水でありました。


清潔で気持ちの良い水場です・・・頭を突っ込みたい衝動はジッと堪えました

 と、言いつつ、水を飲んで一服すると、今度は別の喉が渇いている訳でありまして・・・やっぱしプシューっとやってグビっと行く訳であります。
そんな訳で一休みしたら元気もナンボか回復しまして、独り宴会にもまだ早いし、晩飯と言う頃合いでもないので、ンじゃぁ、やっぱし夕暮れの山頂でも極めに行くかぃ?と言う事で手ぶらにカメラだけ持って出掛けたのでありました・・・いや、ガイドブックでは20分も有れば行くよ、と宣っている訳で、軽い気持ちで、となった次第であります。

  

一等三角点であります・・・一等ですからね、偉いんですよ

   山頂までの道は、なんと申しましょうか、天国へ続く散歩道とでも申しましょうか・・・いや、おっさん如きの拙い文章ではとても表現は出来ませぬ。
まずは、いっぺん行ってばり見さいん、であります・・・石楠花山荘から山頂に向かうと、まずは石楠花の林を抜けて行く訳であります。
いや、今時分に石楠花の花など咲いているはずも無い訳ですが、それでも、咲いたら見事であろうなぁ、と思わせるのに十分な景色であります。
で、1300メートルが森林限界になるのか、そこから上は笹の原に北五葉松と少しの灌木が混じる平原的な開けた世界であります。
標高も高く無い、山容も鋭い訳ではなく、どちらかと言えば茫洋とした感じを五葉山に抱いて来た訳でありますが、山頂の広がりは正に思っていた通りのものでありました・・・雲上の楽園か?いやぁ、在り来たりと笑われようともそうしか言いようが無い訳でありまして、これが花の季節であったならば、宛ら御浄土のようでありましょう・・・って、適当に語ってますが。


夕暮れ迫る大船渡湾です

 山頂付近には日枝神社が祀られていまして、とても霊検灼かな感じがそこはかと無くする訳であります。
これが微妙な方向を向いていまして、何となくSWな訳であります・・・おっさんの勘では、設置する時に磁北と偏差を考慮しなかったんじゃないか?なんてドーでも良い事を思いつつ、しかし、しっかりと日本国の安泰と、引いては世界の安泰も願ってみた次第であります。


朝焼け迫る大船渡湾です

 さて、石楠花山荘の宿泊の感想と言いますと・・・夜は賑やかの一言に尽きる訳であります。
いや、こんなに動物の気配を感じた山小屋はココが初めてと申しましょうか、はっきり言って前代未聞であります。
で、高床のベランダになっているので仮に相手が凶悪な獣であっても襲われる事は無いだろうと思い暗くしたまま静かに出てみた訳であります。
で、直ぐしたの笹薮でがさごそやっているのが誰であるかを確かめるべくヘッドランプを照らしてみると・・・なんとも間抜けな顔をした狸でありました。
良く肥えたケツをモコモコとさせ逃げる様はご愛嬌と言いますか、微笑ましいものでありました。
その他にウサギも走り去りましたし、イタチよりも二回り程大きかったのであれはテンであろうと言うのも駆け抜けて行きました。

     

五葉山のご来光です

 いや、酒を呑みながら星を眺めラジオなど聞いていた訳ですが、ロウソクの明かりを消し、ラジオも消して真っ暗にしていた方が遥かに面白い訳であります。
狸は小屋の脇に転がっている鉄板を踏んではガラガランと金属音を立て、ウサギは薮の中を走り抜ける音をガサゴソと立てているし・・・ホントに賑やかでありました。
満天の星も随分色々と見て来たけれども、ここのは一段と凄いな・・・空が真っ暗だからだろうな・・・いや、しかし、海の方を見ると靄った中にボヤーっと光るイカ釣り船の明かりなど見えて、これもまた幻想的で美しいし・・・参ったなぁ、こりやぁ空気の一段と澄む秋にまた来なくちゃなぁ、と、ウィスキーなど舐めながら思うのでありました。


朝焼けに染まる山頂付近

 四時頃には起きて山頂まで散歩をし、無駄に写真などを撮ってのんびりと過ごしました。
小屋に戻り、パンとソーセージで朝食をとり、コーヒーを何杯も飲み、ゆっくりと余韻を噛み締めるようにパッキングをし、床に飛び散った寝袋の羽根などを箒で掃き出し、窓の鍵を閉め・・・。
ンじゃぁ行くかぁ、と腰を上げた時には6時半を過ぎていました。
いつもの事ではありますけれども、一夜の宿を後にする時と言うのは少し感じるものがある訳です・・・いや、後ろ髪を引かれると言う程のものでは無いのですが、なんだか小屋も人気が無くなるのを惜しんでいるような、そんな気がするのでありますが・・・。

 昨日、あれ程大変だと思った道は下ってみれば雑作も無く、やっぱし体調が相当に悪かったんだなぁ、など思いつつ歩いて行くと、1時間と少しでバイクが見えました。


   いやぁ・・・山は やっぱし良いもんです。



     この話 完




山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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