よたよたと、山登り


    No.72

       

    朝日連峰 天狗角力取山〜障子ヶ岳

         10月13日 曇り〜雨

     焼酎背負ってぇ・・・よいしょっ

       ホントーは一気に狐穴小屋まで行っちまうつもりであったのですが、諸般の事情により、本日の所は天狗小屋泊まりで勘弁してやるぞ、と、スタートして直ぐに気持ちは変わっちまっていたのであります。
    予定を変更した理由は二つ。一つは足の具合が思ったよりも良く無く、歩き始めから違和感を感じており、長駆して狐穴小屋は厳しいかも、と言うのと、どんよりとした曇り空から、初めチョロチョロ中ぱっぱ、とばかりに強まって来た雨脚が二つ目の理由でありました。
    しかし、出発が8時40分というのは、真面目に歩いて日没と追いかけっこで狐穴小屋に届くかどうかと言う時間な訳でして、こう言う事をやるんなら日の長い夏場にやるべきなんでありますね。

     大井沢の温泉の広場の一寸手前の路地の様な所を曲がって舗装された林道を進み、大井沢川の橋のたもとに程良い駐車場を見つけ停車であります・・・南俣沢出合と言う場所のようでありました。
    身支度をして歩き始め、さあいよいよ登山道へ、と言う所に高札があり「天狗小屋の管理人は山を下りたので、小屋利用の協力金1500円は銭函に入れてくれろ」の旨が書かれていた訳であります。
    あいやぁー・・・山に自販機は無いべと思って財布は車に置いて来ちまったよぉ、と・・・そうなんです、飯豊・朝日の避難小屋は1500円の協力金が必要なんでありましたが、出発の支度にかまけてすっかり忘れておりました。
    しょーがねぇなぁ、と言う事で車まで戻って1500円を取って来るのに10分のロスが生じてしまった訳で、こりゃぁ狐穴小屋は・・・?と。

     
    やっと視界が開け、霧の向こうに朝日の主稜線も見えて来ました

     登山道に入ってからはずーっと視界の開けない単調な山道を行く訳であります。
    いや、紅葉もそれなりに美しく、大好きな名も知らぬ毒キノコの写真などもそれなりに撮れたりするのでそんなに悪い山道でもないのですが、しかし、霧がかかっていた事もあり、見通しが利かない暗さはナント無く重苦しい雰囲気を醸し出すのでありました。
    淡々とした登りを淡々と登って行って小さな沢を2本越えて暫く行ったらようやっと稜線に出て視界が開けたのでありました・・・歩き始めて2時間近く経っておりました。

    夢の坂道は木の葉模様の石畳、まばゆく白く長い影ぇ〜と口ずさんでみました

     途中でかなりな勢いの雨が来たのでありますがその時は運良くブナの大木の中を歩いておりまして「ブナの森は傘要らず」に助けられ、合羽無しで歩いて来られたのであります。
    で、きついんだかきつくないんだか、まあそれなりに汗はかくけれども参ったなぁ、と言う登りに出会す事も無く森林限界を超えたと思ったら、立派な石畳の道に出会した訳であります。
    うーん、何だってまたこんな立派な登山道を、誰が何の目的で・・・昭和天皇がこの山に登ったという話しは聞かないんだがなぁ、などと思いながら行くと、ロボット雨量計の小屋が見えました・・・これの為に登山道を石畳にした?そんな無駄な事をするかなぁ?と。
    ここまでくれば以東岳やらが見えても良いはずなんでありますが、如何せん濃い霧が邪魔をして何も見えないのであります。

     
    おお、あれは正しく天狗小屋ではないかいな?あれに泊まろうっと。

     さて、霧雨で濡れるのと合羽を着て中から蒸されるのとどっちがより不愉快か、と推し量ると、やっぱし合羽嫌いのおっさんは少し位濡れても身軽で居たい訳であります・・・いや、これで風か冷たくて寒かったら迷わず合羽なんでありますが、なんと、本日のこの辺りの気温は13度もある訳で、とても温かいのであります。
    で、快適な歩幅の石畳をフウフウ言いながら登って行きますと、粟畑の三叉路に出まして、明日行く予定の障子ヶ岳方向の道標が現れました。
    それとともに、前方には天狗角力取山・・・らしきものも見えて来たのであります。 いや、何故にらしきもの、なんて言うのかと言いますと、もっこりした山頂らしきモノが見栄はするのですが、これぞ天狗角力取山だぞ、と言う押し出しの強い頂は見えないのであります・・・なんたって、天狗角力取山と言う勇ましい名前ですからね、それなりのモノを想像して来ている訳であります。

    まっ、慎ましい山頂の標識がなければ黙って通り過ぎちまいます。

     さて、天狗角力取山に辿り着いて時計を見れば、まだ11時50分・・・自分の見立ててではここから狐穴小屋まで4時間ちょっとなので、行けば行けるな、と、ちょっと迷ったのでありますが、丁度その時、霧が小雨に変わりつつあって、こりゃぁ行っても楽しく無いな、との結論に達したのでありました・・・ふぅっ、とても良い決断の雨だったわい、と。
    そうと決まれば気楽なもんでありまして、さっさと天狗小屋目指して行くのでありました・・・未練はない、事もなかったが、足も不調だし。

    カッパの皿のような禿げた地面が天狗様の土俵でありますか?

     で、余談でありますが、天狗の相撲取り場は、山の上の見晴らしの良い所に忽然と現れた禿げ地であります。周囲にはちゃんと植物が生えているのに何故にこのわずかな面積が、しかも円形に・・・私は直ぐにピーン来ました。これは、宇宙人の円盤が着陸するのに使われていた場所であると思う訳です。故に、某かの影響で持って禿げていると・・・間違いない。

    夕方、まさかと思う様な晴れ間が出て、三日月がきれいでした。

     小屋に入ったのが12時10分頃であります・・・焼酎はたっぷり有るとは言っても、なんぼナンでも暇を持て余すぞ、と言う時間でありまして、どーしようと思う間もなく、小屋の一角に陣取る蔵書の数々を発見・・・グフフフ、焼酎飲みながら山小屋で読書ですかぁ?願っても無い状況であります。

    見よ、優雅な生活空間の総てを!!!!

     ポットに手つかずの番茶が熱いまま500CCあったので承知優はこれでお茶割りにしていただく事にして、第一次晩飯の支度をしつつチビチビと。
    いや、昼飯は、熱々のクリームシチューとコロッケパンと缶ビールで済ませている訳で、晩飯第一弾は、カレーとご飯とさんまの蒲焼き缶詰と缶ビールに、デコポンのデザートが添えられている訳であります。
    で、これを5時前に喰っちまうと絶対にもう一回腹が減る訳で、予定では8時頃に第二次晩飯タイムが来る訳でして、それの献立は、焼きタラコのおにぎりとワカメスープと焼き鳥の缶詰であります。
    ちなみに朝飯は、鍋焼きうどんと夏頃、沢登りに行った時に貰ったお赤飯が残っていたので、それであります。

    たまに燃やすガスコンロの火で片方だけ乾きが早いのですね

     第一次晩飯の後一眠りをして7時頃起きたら既に真っ暗でして、外に出てみたら小雨でありました・・・夕暮れ時のつかの間の青空は何処へ。
    で、ずーっと下の方に(たぶん大井沢の灯り)ぼーっと人口の光が見えているんでありますが、けっこう遠い訳で、あそこから歩いて来るって言うのは、大変だよなぁ・・・何しに来るんだろうな?酒飲むだけなら街の方が便利なのにな?などと街の灯に向って問いかけてみたりする訳でありますが、まっ、サッサと寝袋に潜って、焼酎の第二弾をやらなくちゃ、と。
    結局は椎名誠の「ハーケンとなつみかん」の文庫本を読み終えて、もう一冊に手を出しちまった為に、読み終えたのは11時頃と・・・酔っぱらい度もベロベロでありました。


    10月14日 霧〜快晴

     頭痛いし・・・脚も痛いし

    晴れそうな気配の、なんとも悩ましい太陽です

     あいやぁ・・・目が覚めたら5時半だもの・・・飲み過ぎだわ、頭痛い・・・取り敢えずお茶だな、うん、濃いお茶だな、とコンロで湯を沸かしました。
    で、外に出てみると、やっぱり霧に包まれている訳で、今日もダメなのかなぁ、と。
    朝日連峰では、持参の980円のラジオではAMは入らず、FMしか聞かれないのです・・・これの天気予報が最高でして「今日は、東海・北陸・関東地方では概ね晴れるでしょう」と言うのを聞かせてくれる訳です・・・こう言うの、何の為に、誰に向って流しているんでありましょうか?
    で、二日酔いの頭を抱えつつ、起き上がろうとすると昨晩から心配だった右足首に激痛が走る訳です・・・これは本格的にヤバイかも、と。
    まず、取り敢えず朝飯を食いながら今後の対策を練る事にしようと、鍋焼きうどんと言いつつも、エビ天とワカメが少々の、ダルマ薬局で105円のそれを火に掛けて待った訳です。
    うーん、カツオだしの匂いが堪りませんねぇ・・・汁に赤飯ぶち込んだらダメか?でやってみたら、これが中々美味いもんで、赤飯の彩りも良く、一見豪華な炭水化物ばかりの朝飯は粛々と進んだのでありました。

    夜明けに覗いた青空はどこへやら、小屋の周りはまた霧に

     で、朝飯の最中に少し強い雨がザァーっと降ったんでありますが、それは晴天への露払いであったものか?いつ出掛けようかとクズグズしていたら、急に明るくなって来まして、こりゃぁサッサと出発しなくちゃぁ、と出掛けたのが7時40分でありました・・・いや、ホントーに愚図なんであります。
    一人きりの山行だと、起きてから出掛けられるようになるまで、最低2時間は必要なのに、それでいて毎度のごとく二日酔いで早起きは苦手と来ている、ドーしようもないダメ親爺でありました。

    どーだぁこの青空、普段の行いの賜物だぁ・・・これから行く障子ヶ岳

     そんな訳で、天気もよく無いし、足も不調だしで、まっすぐ元来た道を下ろうと思ったのでありますが、小屋を後にして三叉路へ向っている途中に、天気がグングンと回復して、頭上に広がるのは抜ける様な秋の空であります。
    こりゃぁ足が痛いなんて事は言っていられない訳で、当初の目的を完遂するべく、障子ヶ岳を廻らない訳には行かなくなっちまったのであります。
    いや、某月某日某所にて、岩登りの話しの中で障子ヶ岳の斜面を登れるという事が出まして、なんとなくその壁を見てみたいな、と言う思いがこの度の山行の目的でもあった訳です。
    なので、狐穴小屋には届かなかったは、障子の岩壁は見損なったは、と言う事では、この度の山行の目的は「山小屋に泊まって焼酎を飲む」だけになっちまうのであります。
    そんな訳で、止めりゃぁ良いのに気持ちだけが先走って、現実を顧みずにルンルンと障子ヶ岳に向ったのでありました・・・まだ軽いビッコでありました。

    いやぁ、こう言う景色見られただけでも幸せなんだわねぇ。

     障子ヶ岳へ向う道は全編これ稜線通しでありまして、気分爽快ああ壮快、であります。
    快晴の空のもと、日差しは少し汗ばむ程度・・・Tシャツ一枚で丁度でありました。
    で、向う山の姿は、わずか1500メートルに少し足らない、どちらかと言えば朝日連峰でも低い方の山であります。
    しかし、目に入るその姿は山の標高云々を越えた存在感を示し、行く手にズズーンと聳えている訳であります・・・これからあれに向うのかと思うと胸が躍るのであります・・・いや、これホント。

    遠くに見えたんですが、以外にあっさりと着いちまいました。

     山歩きの醍醐味は稜線歩きに尽きる、と思っているのでありますが、取り分け積雪の多い山の稜線は雪に削られやせ細った尾根になっている事が多く見通しも良く、歩いてこれほど気分の良い所はない訳です。
    しかも,本日は滅多に見られないムフフフ快晴、と。
    見た目には結構遠く感じた障子ヶ岳だったんでありますが、ピョコタコのビッコでも9時少し過ぎには到着したのでありました。
    で、普段はあまり休憩を取らないんでありますが、ここでは甘いものなどを食し、朝日連峰の主稜線の南の端から北の端まで、ズズズイーっと眺め、写真を撮りのんびりした訳であります。
    朝日連峰の南の端、オケサ堀から葉山を通り、大朝日を越え大鳥池までの全山縦走をしたのが17歳の時でありました。
    本日、目の前に長く連なる尾根を見て、良くもあんなに歩いたものだな、と感慨深いものがあるのと同時に、もうあれを歩き通す力は無いな、とちょっと寂しくもあったりする訳であります。

    障子の上から岩の壁とこれから行く小障子から紫ナデの方面を望む

     さて、なんとかまともに歩けたのはここまで、でありました・・・登りは大丈夫なんであります。
    問題は下りなんでありますが、このコースの最高点が障子ヶ岳でありますから、これからは基本的には下りな訳であります。
    いや、基本的に下りだと言うのに本日の累積標高差で登りが500メートル以上も有ると言うのは、小さなピークの登り返しが多いと言う事で、一番脚に応える山道であります。
    で、障子からの下りで既に足首がダメになったので秘密兵器の・・・いや、病院から貰って使わずに仕舞込んでいたただの湿布薬とテーピングなんでありますがね。
    それを左右の脚に施しまして、騙しだまし、捻らないように、滑らないように、転げないようにと、慎重に下る訳であります。
    普段なら腹の立つ登り返しの登りも、下りよりも痛く無いので心持ち好意的になり、登りがいつも程憎く無い訳であります。
    小障子ヶ岳から歩いた来た障子ヶ岳の稜線を振り返る。

     で、ここまでも結構大変な下りであるな、と思って来たのでありますが、本番は、紫ナデからでありました。
    もっとも自分の脚の具合が悪いので実際のご割り増しくらいに酷く感じたと言うのは否めないかも知れませんが、しかし、それを割り引いてもかなり急な下りが、延々と続くのでありました。
    途中に息付きの出来る緩い傾斜なんかが有ればまだ救われるのでありますが、下れども下れども我が暮らし楽にならざり、じっと屁をこく、でありまして、兎に角下る訳です。
    いや、本日は単独者と七人の老人クラブのパーティーとすれ違っているのでありますが、あの年寄りどもはここを登って行ったのか、と思うと完全脱帽、最敬礼であります。
    もしも、ここにお猿の篭屋でも現れて「もしもし旦那、時間距離併用メーターですが、乗りませんか?」と問われたら、料金はビザカードで良ければ金に糸目をつけずに乗ってしまった事でありましょう・・・それくらいのピンチで有りました。
    まっ、そうは言ってもピコタコで山を歩くのにも大分慣れて、時間さえ掛ければなんとかなると言うのを学習済みなので気持ち的に焦りは無く、又と無い絶好の秋の空のもと、のんびり下れば良いさと、眉間にしわを寄せ、目を三角にして下って行くのでありました。

     登山地図では休息を含まないコースタイムが5時間半、と書かれていたのでありますが、自分が車に戻ったのは1時10分でありましたから、ピッタリ5時間半で降りて来た訳であります。
    しかし、障子ヶ岳までの登りで結構な時間短縮をしてある訳で、残りの下りにどれ程手こずったかが如実に現れている訳であります。
    うーん・・・何時までこんな具合が続くんだろうかなぁ、と、ちょっと嫌になって来るんでありますが、今シーズンの夏山シーズンはたぶんこれで終わりでありましょう。
    いや、軽いのはまだまだ行きますけれども、高い山は間もなく雪ですからね・・・雪道は脚に優しいから。
    と、言う事で、ヘリコプターの救助を頼まずに済んで、目出たし目出たしと。


     この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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