よたよたと、山登り


    No.80

       

     三峰山を目指して北泉でへばる

         2月 05日 土曜日 曇り時々晴れ時々地吹雪

     誤算だった・・・

       スキーばっかり行っていて登山には殆ど行かなくなっちまった訳です。
    こんな事ではイカン、と思っていた訳でもないのですが、今シーズンは雪が深くて雪の落ち着くタイミングを見計らっていた訳ですが、今回はそれを大きく見誤っちまった訳で、難儀しました。

     土日祝日は除雪協力費として500円を徴収される泉ケ岳駐車場へ車を置きまして、装備諸々を整え出発したのが8時45分でありました。
    気温が上がるという予報なんですが歩き始めはそれほど高くも無く、一応標準的な身支度でスタートしたんでありますが、モンベルのドロワットパーカーとやらはやけに保温力が高いのか、とても暑い訳です・・・しかし、下にはシャツを2枚・・・あっ、高級なカシミヤのシャツとモモヒキを着込んで来たんだ・・・やっぱしおっさんにはユニクロの安物が良いのかなぁ?と言う事で敢えて脱ぐモノと言えば、アウタージャケットしか無い訳ですが、時折パラつく雪や枝から落とされる爆弾雪から身を守る為には脱ぐ事も憚られ・・・まっ、汗だくで行くさ、と。

       
    水神までやって来て・・・やっと事の重大さに気付いたおっさん

       さて、本人は一生懸命歩いていると思っていたのに、水神までに数組の日帰り登山者に抜かれ、へこへこと登って来た訳です。
    本日は軽量化を図る事に成功しまして荷物の総重量が16キロであります・・・軽量化の秘訣は、ビールを一本にした事ではありません。
    で、水神から沢を渡って北泉方面へ行こうとしたら・・・ガビョーン・・・踏み跡が無い・・・誰も行っていない。
    ウヘェーっここからは独りラッセルでありますか?と、焦ったんでありますが、後から4人のパーティーがこちらへ回って来た訳です。
    おっしゃぁ・・・まっ、交替しながら行ければなんとかなるだろうと、後が来ている事など気付かぬ素振りで、オラ一人で頑張るもんねぇの雰囲気をモンモンと漂わせ、勇躍沢を渡った訳であります。
    が、しかし、来るはずの後続は中々やって来ないし、程なくしてすぐ後で聞こえていた声も消えたのでありました・・・ありゃぁー戻っちまったのかい?
    いやはやこの先をずーっと一人でラッセルなんてとても耐えらん無いぞ・・・と、思いつつも、何故か足は止らないのでありました。

     
    水神の沢を渡り切ってちょっと急な登りで膝程度の潜り具合

     参ったなぁ・・・止めっかなぁ?と思いつつも足が止らずなのは、テントを背負っている気楽さでありましょう。
    嫌になったらテントがあるさ、この山全部がオイラの寝床さ、と言う安易なヤドカリ精神が有ったからなのでありましょう。
    と、もう一つは、三叉路まで行けば泉ケ岳からのトレースが有るんじゃないか?との読みが有ったのであります。
    しかし、膝下以上金弾未満の深さのラッセルを一人でこなすのは尋常では無いのですが、助かったのは、背中の荷物がいつに無く軽い事でありました・・・いつに無く軽いったって、ずっと背負ってりゃ同じなんですけどね
    で、ラッセルもアレなんですが、トレースが無いので自分で道を探して行く訳でありまして、概ねあっちは分っていても最短距離で一番楽な道筋を探すとなるとそれなりに厄介な訳です・・・いや、一メートルだって無駄には歩きたく無い心境でありますから。

    おっさんのラッセルした跡・・・体重と荷物で86キロで、良く沈みます

     で、知っている人は知っている、が、知らない人にも分って欲しい難所に出くわしたのは、沢沿いから離れて三叉路へ向かう尾根に登る急斜面で有りました。
    その距離僅かに100メートル程度で、斜度は最大で50度程度か?・・・夏道でも喘ぐ所であります。
    ここは膝を一回打ち込んで雪を固め、そこへスノーシューを2度蹴り込まないと下が崩れて登れないのであります。
    タレカをこかしてキックステップ一回打ちで済まそうなんて手を抜くと元の木阿弥以上にずり落ちてしまうのであります。
    しかし、深雪の急斜面でキックステップの事だけを考えると、ワカンが最強だと思うんでありますが、おっさんのNSRのスノーシューも形の割にはやるもんでして、ナントカ登れるから大したもんです。
    で、傾斜がきついと積もった雪を斜めに切る事になるので積雪的には60センチ程度でも、現実には腰を越えるラッセルになる訳であります。
    おっさんはこの100メートルに45分を要したのでありますが、登り切ったらヘトヘトでありました。
    普段殆ど水を欲しないおっさんでありますが、これを登り切ってからフラフラになり、ペットボトルの冷たいお茶350mlを一気に飲み干しちまいました。

     ここを登り切れば程なく三叉路・・・そこまで行けば、と、望みを繋いで行くのでありますが、標高が上りブナの木が太くなるにつれ積雪は深くなり、おっさんの歩みは遅々として進まない訳です・・・まっ、金弾付いているので父としているとも言えますが・・・?
    そろそろ三叉路なんだがなぁ・・・やっぱしなぁ、泉ケ岳方向からのトレースは無いや、と、ガックリであります。
    時計を見ると既に12時を回っている訳で、このペースだと北泉の頂上を越えるだけでも日没と追いかけっこになっちまう・・・いや、体力が持たないだろうな・・・そこらで幕営か?と思いが交錯する時、何やらトレースらしきモノが見えたのであります、が・・・幻覚か?
    いや、それは紛れも無くスキーの踏み跡でありまして、スプリングバレーから登って来たモノでありました。
    これは助かった・・・これを追えばなんぼかスピードアップが計れて日没前に大倉尾根の三叉路まで行けるかも知れない・・・ガンバンベぇ、と。
    しかし、スキーの踏み跡は足幅が狭くスノーシューで歩くのはとても難儀であります・・・いや、無いよりは格段に楽なんでありますが、元来ガニマタのおっさんの足は平行に切られたスキーの跡に合わせると強制内股になるのであります。
    その結果、変に脚に負荷が掛かってケツの筋肉が痛くなっちまうのであります。

     昼飯も食わずに歩来続け、疲労は極まっていたのでありましょうか?
    北泉の詰めの急な斜面を歩き続けて居る時に、なんとなくボーッとして眠くなって来た訳です。
    ああ眠てぇ、このまま倒れ込んだら気持ち良かんべなぁ、などと思ったその時、結構大きな妙な音がして我に返ったのであります。
    あれは、森の妖精が木の枝でザックを擦って音を立て、おっさんを励ましてくれたのでありましょうか?
    で、このように疲労困憊した時に耳に鳴り響くテーマソングは巨人の星と相場が決まっている訳であります。
    が、しかし、この度はドー言う訳か「楽しんご」が出て来てラブ注入、とおっさんに向かって言うのであります・・・極限で現れたのが楽しんご・・・意味不明でありました

    やっと辿り着いた北泉ケ岳の頂上・・・限界寸前です

     もしもスキーのトレースが無ければ恐らく北泉ケ岳には登れなかったろうと思う訳であります・・・いや、気持ち的にはスキー場のリフトなんか使いやがって、なんて思ったんでありますが、しかし、何処のどなた様か知りませぬが、ホントーに助かりました、と感謝する次第であります。
    で、北泉ケ岳到着が2時30分でありました・・・とても大倉尾根の三叉路までなんて無理も無理・・・しかし、気持ち的には一歩でも三峰山に近づきたいと思い、北泉ケ岳を大倉尾根に向けて下った訳です。
    しかし、おっさんの雪山の鉄則は行動時間は3時まで、でありまして、少し下った所で時間切れとなり幕営の準備に入ったのでありました。

     
    毎度おなじみエアライズ1独り用に冬用のカバー掛け仕様

     テント場になるなと思しき所を見つけては踏む訳ですが、粉雪なのでナンボ踏んでも固まらない訳です・・・いや、スノーシューで踏んで登山靴のズボになるとかえってデコボコが酷くなって収まりがつかなくなる訳です。
    疲労が困憊しているんで地ならしも適当に、そして設営も何時に無くテキトーで、夜の風は北西からと読んでそっちの抑えだけしっかり噛まして他はユルユルありました。
    しかし、実際には風は回って、時折南なんか吹いてテントが風を真横から受けるという最悪の状態が有ったりして、テントが風に煽られて気が気じゃ無く、1時間おきに目を覚ましていました・・・たぶん。

    羽毛のテントシューズは履いて外に出でも雪が着かず滑らず快適です

     取り敢えず倒れ込むようにテントに入った訳です。
    で、雪を侵入させまいと細心の注意を払うのでありますが、どーしても雪も一緒について来る訳で、火を焚くとそれが融けて点と内部の水気が多くなる訳です。
    しかも、ガスを焚くと外気温との差が大きくなり水蒸気の結露がもの凄く、テントの中は思い切り湿っぽくなる訳です。
    その上大量の汗で着ている衣類はびしょ濡れ状態・・・とても着て乾かすなんて悠長な事は無理、と判断して、全部着替える事に。
    下着類を乾いた物に着替え、羽毛ジャケットと羽毛パンツを履いて万全の体制になり快適になって一安心でありました。
    で、困ったのは、明日も着なくちゃならない、ズボンとジャケットをドーやって乾かすか?でありました。
    しばし思案した結果、寝袋とシュラフカバーの間に突っ込み、ホッカイロなんか入れたらドーだろうか?とやってみた訳です・・・結果は、まっ、乾きはしないんですが凍らなかったのでOKか、と。
    一番大事な登山靴は一足づつビニール袋に入れ、抱いて寝る訳ですが、完全に雪を落としたいのに、本日はいつも持って来るタワシを忘れ難儀した次第であります。

    風が治まったのでキジ撃ちに出たらこの景色・・・スキー場と仙台市内

     ホントーに疲労困憊なんでありましょう、食欲がほとんど無く・・・いや、動くのが面倒で何もしたく無いんであります。
    で、晩飯は昼に喰いそびれた特大メンチカツパンとビールとコーンクリームスープとオレンジで済ませました・・・夜食による9時頃、サラミとクラッカーとチーズで焼酎を頂きまして・・・これで食欲無いって?言わないか?

     
    太平洋に日が昇る・・・肉眼では金華山が見えた

     夜、満天の星空なのに強風で地吹雪・・・テントが煽られ気が気じゃなくて熟睡も侭ならぬうちに・・・何故か気が付いたら夜は開けていた訳でありますが・・・。
    やぱし疲れていたので小刻みに目は覚ましつつも寝ている訳で、あっという間に朝でありました。
    起きようとしてテントに頭をぶつけたら一気に霜がドサッと降って来て、ウヒャァ冷てぇーで、一気に目が覚めちまいました。
    テントの内側が霜でびっしり凍っているんでありますが、やがて日差しが強くなるとこれが水滴になって降って来るのは明白な訳であります。
    一泊だから濡れても良いけれど、これが長期の縦走だったら悲惨だよなぁ・・・もう着替えも無いし・・・冬は山小屋に専念するか?なんて事も思ったりしつつ外の様子を窺うと、天気はまずまずなんですが体力も気力も残り僅か・・・今更三峰なんて無理だし・・・んじゃぁゆっくり寝て帰ろうと、引き続きゴロゴロ・・・かなり湿っぽいですが寝袋の中は温々でまだ出たく無いのでありました。

    完全に陽が昇り太平洋、松島の島影が見えます

     さて、8時過ぎ・・・朝飯に揚げ玉入り日本ソバなど食し、コーヒーなど飲んでマッタリしていた訳ですが、やっぱし帰り支度はしなくちゃならないのであります。
    で、意を決してテントの撤収に掛かったら空が曇って西風が強く吹き出しまして、良いんだか悪いんだか不明な天候になった訳です・・・やっぱしさっさと帰れと言う事だな、と。
    風が強い中でのテントの撤収は立てる時より厄介で、ベグを抜けば飛ばされるし、抜かなければ畳めないし・・・おっさんの手は2本しか無いので厄介なのであります。
    まっ、こう言う時には取り敢えず仕舞うと言う事で、適当に袋に突っ込む訳です・・・ドーせ家で拡げて干すのでありますから。
    で、アルミのぺグを素手で触ったらペタっと指に吸い付くではありませんか・・・おお、そんなに冷えているとは思わなかったぞ、と言う事で、久しぶりの感覚に驚くやら嬉しいやら。

    仙台湾が輝いております

     パッキングをして歩き始めると自分の体力が一杯一杯なのが分りまして、三峰山なんてとんでもなかったな、と反省するおっさんでありました。
    ふうふう言いながら北泉を登り返して頂上に付くと、チラチラと小雪が舞、風も強くなり、おっさんの手持ちのバロメーターの示す気圧はぐんぐん下がって来ている訳です・・・しかし気温はどんどん上がって雪は腐って来るんだろうな、と言う気配であります。

    長倉尾根側から北泉ケ岳の山頂へ、雪屁の上から行く

     で、長居をしてもしょうが無い山頂を後に北泉ケ岳を下り始め、間もなくスプリングバレー方向からの合流点と言う所で、第一登山者発見でありました。
    やっぱしスキー場から上がって来たとの事で、リフトが動いて直ぐに乗って来たとしてもえらく速い訳で、やっぱし短時間でここまで来られるのであるなぁ、と感心するやら拍子抜けするやら・・・オラの苦労はナンなんだ、と。
    で、三叉路を少し過ぎると、第二登山者の一行を発見でありまして、この人達は水神から昨日のおっさんのトレースを踏んで参ったのだとか・・・それでも所々消えているので大変であった様子ではありましたが7〜8人も居れば屁でもないでしょう?
    その後第三登山者から弟四登山者に遭遇と・・・ああ、おっさんも今日なら三峰に行けたかもなぁ、なんて思いつつも、いや、北泉から先で地獄を見て同じ結果だよな、と思い直す訳あります。

     テント場を8時半出発、駐車場着11時少し過ぎでありました。
    寒くて疲労困憊でも、下山してみれば総てが楽しかった訳で、懲りないおっさんは、雪が締まったら今度こそと闘志を燃やすのでありました・・・いや、三峰山ごときに入れ込んでドーするのよ、と言うご意見は無用であります。



       この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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