よたよたと、山登り


    No.85

       

     里は春でも冬支度

        4月 29日 冬のような春山

       5月3〜4日に船形山のブナ平でテントを張って大人の秘密基地ごっこをやるので、そこで必要な大人の飲み物などをデポしに行くのだと言う千葉B氏に同行し、序でに船形山の山頂も行ってみようと言うお誘いに乗っての山行でありました。
    いや、ブナ平って何処?とか言うのはアレです、地図を探しても出てきません・・・ヒントは20番から千本松山を目指す、かな?・・・へぇっ?知りたくも無い、ですとぉ?残念だなぁ、船形山でも有数のブナの巨木が見られるんだけれどもねぇ。

     
    かなりの巨木なんですが、弱っていた木なのでしょうか?

       7時少し前、旗坂の駐車場は静かでした。
    朝のうちは天気もまずまずで、しかもゴールデンウィークの初日だと言うのに我々の他に登山者の姿は1名だけでありました。
    やっぱし、まだまだ山なんか登ってる場合じゃない人が多いのか、自粛とか、色々あるのかも知れませぬ、が、ナンであれおっさんは登るのであります。
    そして、おっさんの友人一同も登るのであります・・・それも、けっこう頻繁に・・・。

     7時10分頃、ボチボチと支度をした総勢5名はゾロゾロと歩き出した訳であります。
    旗坂キャンプ場周辺は雪はほとんど無いのでありますが例年のように花が咲いている訳でも無く、なんだか良く分からない雰囲気であります。
    昨年はそろそろ終わるんじゃないかと言う感じだった水芭蕉も朝は咲いていませんでした・・・朝は、ですが、帰りにはチラホラ開いていましたが。

     ちょっと気になる伐採の跡なんかを横目で見ながら雪の消えた登山道を登って行ったのでありますが、北蔵王と違って樹木が雪に負けて折れたり倒れたりしているモノが見えないのであります。
    ふぅーん・・・流石に昔から豪雪の船形山で鍛えられた木であるな、なんて感心して登って行ったら、ドデーンと太いブナが登山道を塞いでいるではありませんか・・・無惨な姿に、ありゃぁーとため息であります。

    船形のイワウチワは色が濃くてベッピンさんです。

     口々に、木が弱っていたんだっちゃねぇ、とか、世代交代なんだべねぇ、とか好き勝手を言いつつも、倒れたブナの大木に思いを馳せるのでありますが、しかし、心の何処かで登山道をすっかり塞がれちまった事に「邪魔癖ぇなぁ」なんて事も思いつつ迂回して上を目指したのであります。

     標高が800m以下では陽当たりの具合で残雪の様子は一変する訳で、南東向きでは雪は皆無なのに、北向きの日陰なんかではタップリと雪がある訳です。
    で、おっさんが勝手にイワカガミ平と呼ぶ辺りは、陽当たり抜群・買物至便・駅まで三分と言う好立地なんでありますが今年のイワカガミは少数の花が開くばかりで、おそらく今朝咲いたのではないかと言う感じで初々しいのです・・・いや、誠に持って清楚でありました。
    で、何時も同じ頃に見られるショウジョウバカマは本日は一輪も見られませんでした。

    瓶とカンの水物を天然冷蔵庫に保管する千葉B氏と千葉M氏

     いや、千葉B氏がデポに行くので一緒に行かないか?と誘われたので、おっさんもビールや焼酎などナンボか背負えるようにと日帰りにしては大きめの36リットルザックを背負って行った訳です。
    しかし千葉B氏は「バッキングして来たんで背負って行くからはぁ」と言って一人で全部背負っちまったのですが、その重さは半端じゃない訳で、手ぶらに近いおっさんとしては心苦しいんであります。
    まっ、気にはしつつも何時もの事だしな、と甘えちまうのでありますが、しかし、いつも大変な事は率先して引き受けてくれる千葉B氏の存在は、おっさんらには有り難い存在であります・・・感謝。

     
    何時も見上げる11番の標識が足元ですから積雪がわかりますね

     さて、旗坂平からはもう完全に雪山であります。
    しかも天気も下り坂でして、気温は下がり気味で小雪がちらついて来た訳です・・・ありゃぁ、天気予報が珍しく大当たりだな、と。
    で、おっさんは割と早めにアイゼンを履く方なんですが他の皆さんはズボ足のキックステップで平気な様子でヒョイヒョイと登って行く訳です。
    んじゃぁまあ、おっさんだけアイゼンと言うのもアレだし、と言うので履かずに言った訳です。
    しかし、おっさんの登山靴は重量が軽いので本気で蹴り込むキックステップには向いていない訳で「重登山靴が欲しい」なんて事を思いつつ登ったのであります・・・左足だけ水が漏るし。

     途中、三光の宮から升沢小屋まで、千葉B氏によるY嬢とK君のコンパス講座が開講され、アレコレ指導を受けておりました。
    で、Y嬢がコンパスと睨めっこしながら不動岩まで真っ直ぐやって来ると「コンパスって凄い」と感激して居たんでありますが、ある意味これが出来ないで雪面を歩いている事の方が「あんたは凄い」とおっさんは思うのでありました・・・しかしもう完璧です。

     本日は雪が降っているんでありますが、標高1200メートルで気温は0度から1度で風弱く視界も利き、それ程寒く無く、条件は良い訳です。
    で、途中では不動岩の辺りで「5月3〜4日はこの岩に登るすペ」と言う事で「んではロープ持って来るっちゃ」と、次の遊びの相談なんかして行く訳で、中々前に進まない訳です・・・不動岩の前で10時半近く・・・うーん、山頂は12時頃、丁度昼飯時か?と。

     
    升沢小屋も沢もまだたっぷりの雪に埋まっています

     升沢小屋を過ぎていよいよ千畳敷までの登りに入る訳ですが、標高が上がるにつれ風も出てきましてちょっと吹雪の様子になって来た訳です。
    しかし1400メートル近くになっても氷点下1度と温かく、冬時の痺れる寒さの中の吹雪と違ってなんとなく緊張感は無いのであります。
    しかし、残雪の締まった雪にさらっと湿り雪の新雪が積もった急斜面と言うのはそれなりに厄介な訳で、升沢小屋の直ぐ先から千畳敷を目指して取り付いた裸の雪面は、滑って落ちたら下まで逆戻り、の緊張感を伴うものでありました。
    正規の沢沿いコースよりも斜度があるので雪上訓練とかにはとても良い所であるな、と思います。

     
    緊張の急斜面を登り切るととても厄介な薮漕ぎが待っています

     そんな訳で、良くアイゼン無しで登れるな、と言う斜面を皆が難なく登って来る訳ですが、そこからがまた一苦労な訳で、丁度背丈程のハイマツの薮を次の斜面まで漕いで行く訳であります。
    いや、沢登りの詰めの笹薮の薮漕ぎなんかハイマツ帯に比べれば屁でありまして、霧氷の付いた枝をかき分けて行くのはとても良い精神修養になるのであります。

    山頂小屋も北西の風に煽られ霧氷だらけで冬の様相でした

     さて、最後の2番の標識から山頂までは薮を避けて夏道を行く方が良いと思ったのでありますが、夏道は陽当たりが良いので雪が溶けてズッポズッポにはまる訳です・・・薮も嫌、さりとてスボっと脚を取られるのも嫌、で、歩き難さと言う事では最後の詰めの稜線上が一番厄介であったも知れませぬ。
    で、山頂到着は11時55分でありました。
    ああ、そう言えば、朝に旗坂キャンプ場で出合った本日唯一の登山者はスキーで先行していたのでありますが、おっさんが山頂に着いた時に下山の滑降に入る所でありました。
    で、滑り出したのをじっと見ていた訳ですが、流石にこの天気の中を一人で登って来るだけあって、見事な滑りでありました・・・2時間で下っちまうんじゃないでしょうか?

    ストーブの火の始末を厳重にして下山の準備です

     山頂小屋には自分らが運び上げた薪が沢山ある訳です・・・そうですねぇ、本日のメンバーが持ち上げた分だけでも二日分は燃やせますかねぇ?
    と、言う事で、もう積雪期も終盤に入ったので薪もあまりそうだから、我々は避難者ではないけれども、寒いので焚きますか?と言う事でストーブに点火した訳です。
    で、何時ものようにビールなんか飲んで、Y嬢が準備と支度をしてくれた釜揚げウドンをたっぷり食べ、まったりと過ごした訳であります。
    いや、ナンボ春山とは言え外は吹雪き模様なんですが、なんと、2時過ぎまでのんびりしちまいまして、こりゃぁ旗坂キャンプ場着は5時を過ぎるかな?・・・まっ、6時まで足元は見えるし寒く無いし、と・・・2時10分の出発でありました。

    雪の稜線に佇む登山者・・・見つめる先には何が?

     はっきり言って酔っぱらい気味のおっさんに緊張感はありませんで、後はドーせ下るだけだから、と至って呑気な訳でありますが、これも春山だから許される楽しみな訳です。
    一見すると真冬と変わり無さそうなんでありますが気温が高いと言うのは怖く無い訳です・・・まっ、強いて言えば雨と雪崩ですか?
    そんなもんですから、山頂からの出発が午後の2時過ぎだと言うのにこの一行は急いで降りようなんて気はサラサラ無い訳で、また遊びながら行くのであります。

    滑落でも滑落停止の訓練でもありません

     で、下りの沢沿いの急斜面に出た所で千葉B氏がおもむろにゴミ袋を取り出して「滑り降りるっちゃ」とやり出した訳であります。
    いや、おっさんも銀マットを持っているんでやっても良かったんですが、なんだか皆さんの無邪気な姿を見ているだけで満足しちまいまして・・・ああ、混ざるより見てる方が良いとは、歳とったなぁ、と。
    しかし、その姿はけっして颯爽としたモノではなく、滑落してもがいているようにも見えるし、滑り落ちて助けを求めている風にも見える訳で、傍目には緊急事態とも見えるのであります。

    態勢としては無理をしないY嬢が一番安定していました

     思い思いのトレースで下る雪山は快適でありまして、滑落滑り遊びをしてきたりしても35分で升沢小屋到着でありました。
    小屋の管理人の千葉B氏が少し小屋の様子を見て直ぐに出発であります。

     三光の宮では先行していたK君が既にお参りを済ませて待っておりました・・・K君は早く歩いているようには見えないんですが実際は相当早い訳です。
    その秘密は、ゆっくりした脚の運びに似合わない歩幅の大きさな訳で、これは筋力が無いと出来ない歩きな訳です・・・もうこの歳のおっさんには真似の出来ない歩きでして、羨ましい限りです。

    ヒメコマツの枝が折れているんですが不思議だと思いませんか?

     雪山は何処でも歩ける訳ですが、登る時は足元を見つめて山頂と言う一点を目指すんで足並みが揃うと思うんです。
    しかし下山は、末広がりに広がる山を下るんで視界も広い訳で、それぞれが自分の思い通りの筋を描いて降りるんじゃないかと思う訳です。
    なので雪山の下山と言うのは絶対に縦一列にはならないんであります・・・絶対です。
    で、登りには考え使いな事や見過ごす事に目がゆくのが下りの楽しさでもある訳です。
    で、この度おっさんはヒメコマツや杉なんかの枝の折れているのを見て不思議な事に気が付いた訳です。
    大雪の重さに耐え切れなくて枝が折れるのなら、一番雪を冠りそうな枝や、風当たりの強い枝から折れるのが妥当だと思う訳です。
    しかし、大きなヒメコマツや杉の木でもブナでも、そうとばかりは言えない訳で、上の枝が張り出して大して雪など積もりそうも無い枝が折れていたりする訳です。
    で、おっさんは感じたんでありますが、木は自分意思で落とすべき枝を決めているのだ、と。
    どんな塩梅と基準でそうしているのかは解りませんが、木は間違いなく自分の意志で落とす枝と残す枝を決めているのだとおっさんは確信した次第であります・・・いや、ヒメコマツでも杉でも見たら絶対に不思議に思いますから。

     さて、旗坂平までくれば後は一息でキャンプ場なんですが、ここで最後の休憩をする所がミソな訳です。
    七つ森「七掛け登山」の時にも効果絶大であったホットレモネードなどいただき、甘いものを、なんて差し出されたのか美味しいチョコレートケーキであります。
    こんな風な楽しみ方をして一日を山で遊び尽くす登山をしている人はそんなに多く無いよな、皆してピークハントに忙しくて、山で遊ぶと言う感覚ではないよな、なんて事を思いつつチョコレートケーキを喰らい、もう一個喰いたかった、とか思う訳です。

     流石にもうすぐ5月でありまして日脚は長い訳です。
    旗坂キャンプ場到着が5時半でありましたが、まだ十分明るい訳で、こんな点も冬とはまるで違う雪山なんだなぁ、と、妙に感心したのでありました。


     いやぁ、やっぱし山はいいなぁ。


       この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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