よたよたと、山登り


    No.93

       

     高嶺桜に逢いたくて・・・あの山へ (以東岳)

         6月07日 火曜日 文句無しの晴れ

     いや、仕事はあったんです・・・しかし、仕事はあとでもナントカなるが、今時の山の条件は後で取り返すと言う訳にも行かない訳で、雪が多すぎてもダメ、消えちまったら手遅れと言う悩ましい季節・・・天気図の等圧線は絶好の天気が続く事を誇示しおっさんを山へと誘うのでありました。
    ええ、まあ、家族やその他の顰蹙とか言う問題はおっさんにとってはアレでして、まっ、後でナントカなる問題でありますからね・・・天気第一主義ですから。

     
    泡滝ダムの以東岳登山口は残雪たっぷりでした

     色々考えて居たんであります・・・飯豊にしようと思っていた訳であります・・・大日杉から本山と大日岳なんか、と。
    しかし、ゴールデンウィーク以後、中途半端な残雪になってから飯豊本山に向った情報が全く得られないのであります。
    いや、はっきりした残雪期の尾根通しで登れる季節と違って、基本は夏道を行きつつも時に残雪に行く手を阻まれる今の時期の方が登るのは難しいとも言える訳で、ビビったんであります。
    夏道と残雪が交互に出たとして、残雪が急な傾斜のトラバースだったとして、アイゼンも持っているとして・・・ここだけの為にアイゼンを履く面倒臭さは想像を絶するものだとおっさんは思うのであります。
    そう言う意味では、ずーっとアイゼンを履きっ放しで雪渓歩きに専念出来る石転びの方が安全で楽じゃないのか?なんて事も思ったりする訳です・・・まっ、コースにもよりますけどね。

     泡滝ダムを10時30分に歩き始めました。
    九分九厘、本日のお宿は大鳥池の小屋になるだろうと踏んでいる訳で、ですから軽い気持ちでスタートした訳であります。

         
    泡滝ダムから歩き始めてすぐ、初っ端からこれですから

     そんな訳で、もしも思ったよりも道の条件とか良くて早く大鳥池に着いたとしたら、もう一踏ん張りして以東岳の小屋まで行くかもしれないけれども、その可能性は相当に低いな・・・何故なら、この暑さの中をそんなに頑張ったら、2泊分の背中のビールが4本じゃ足りなくなっちまうでしょう、と言う事です。
    この度の山行の目的には「大鳥池湖畔でビールを飲む」が含まれている訳でありますから、やっぱし必然的に泊まらざるを得ないのであります。

    アイゼン履けば安全なんでしょうけれども、面倒なんでピッケル一本で行く訳です

     さて、登山地図のコースガイドでは泡滝ダムから七つ滝沢の吊り橋まで1時間15分となっているのでありますが、冗談じゃない、この道を迷わずに行くだけでも大変な事なのに、そんなに早く行ける訳が無いだろう、と怒りたくなるほどに厄介なのであります。
    まず、全編が沢の脇を巻いて行く道なんで基本的にトラバースの道な訳です。
    で、トラバースの道に上から落ちて来た雪などが被さっていると、そこは急斜面で滑って落ちたら下は大鳥川へドボン・・・まっ、雪解けで増水した激流なんで一巻の終わり間違い無し、であります。
    んじゃぁ安全の為にアイゼンを履きますか?と言うと・・・距離にして20メートルとか、長くても50メートルを乗り切ればまた土の道になる訳で、履くのが良いのは分かっているけど面倒くさくてキックステップで乗り切る訳です。
    しかし、ピッケルの支えと、カッティングで道を作れないとホントーに谷底へ逝っちまうよ、と言う箇所がナンボでもある訳で、そりゃぁ神経使いましたよ。

     
    貴方はこの残雪の先に夏道が有ると信じて行けますか?

     そんな訳で最初の吊り橋の「冷や水沢」までで1時間以上掛かっている訳で、とても次の吊り橋の七つ滝沢まで1時間15分は信じられない訳であります。
    で、残雪のトラバースにテクニックと無駄な時間を要するばかりではなく、残雪の先に夏道が見つからない事が有る訳です。
    特に七曲がりと呼ばれるつづら折りの道は、ジグを切って向きを変えている箇所が雪に埋まっていれば真っ直ぐ行っちまう訳であります。
    で、薮に行く手を阻まれるんでありますが、これが雪解けの直ぐあとの薮なんでパヤパヤでありまして、なんとなく行けそうにも見えるし、行った気配は無さそうにも見えるしで悩ましい訳であります。
    いーや、GPSは沢沿いの谷の道では正確さに欠ける訳で、ピンポイントで数メートルの行き場を探す作業にはちょっとアレでして、だから頼りになるのは勘しか無い訳であります。
    で、夏道も未だ整備がされていない状態で、倒木やら折れた枝などたっぷり在って、ホントにこれで良いのかよ?と疑わしかったりするのであります。
    ああ、恐らく夏には涸れて水の無い沢がドバドバのジョボジョボになっている訳ですから、普段から水のある沢は徒渉に難儀する事になる訳です・・・雪面のトラバースと沢の徒渉を考えると登山靴よりもスパイク長靴が良いかも知れません。

    道を見失い薮を漕いで明るい方を目指したら大鳥池に飛び出しました。

     まず、登山地図が示す目標時間1時間15分の七つ滝沢の吊り橋まで2時間を要した訳で、こりゃぁ以東岳の小屋なんて無理だよな、と言う事で、より一層のペースダウンになった訳であります。
    で、本日のハイライトとも言うべきシーンは・・・長い雪面が現れた訳でありますが、前方を注視しても続く夏道は見えない訳です。
    いや、この手の状況では滅法勘の良いおっさんなんでありますが何処を見ても隙間が見つからないんであります・・・あいやぁ、判らねぇや、と。
    で、上方向に行く手は無いとは思うんでありますが、しかし、ドー見ても一段上は開けて見える訳であります。
    GPSは先ほどから踊り狂っている訳で、おっさんは既に大鳥池の上を歩いていたりするのであります。
    で、腕時計の標高をみるとほとんど大鳥小屋の標高に近い訳で、こりゃぁこの上が大鳥池の淵になってんじゃないのかぁ?と睨んで雪面を直登し、ついでに薮も漕いで登り切った訳であります・・・ほーら、やっぱしだもの、大鳥池なんだもの、と言う事で眼前には湖面がドドーンと広がったのでありました・・・ふぅーっ助かった、と。

    まっ、他にやる事も無し、これが楽しみで来た訳ですから

     いや、無事に辿り着いたのは目出たいんでありますが、明後日の帰り道をどーしようか?と心配する訳であります。
    先ほど飛び出して来た薮の道の入れ口には、万が一を考えて目印の棒を立てては来ましたが・・・赤布が必要だなんて思いもしなかったんですけれども、数カ所は絶対に欲しいもんでありました。
    大鳥池を目指す釣り人などは慣れているからこの道を平気で来るのでありましょうか?
    しかし、ピッケル無しでは殆ど不可能と思われるトラバースの斜面も有り、雪が溶けるまでのわずかな期間とは言え、そこそこの難易度を持つ道であると思う訳です。
    大鳥池の小屋番の人はおっさんが小屋ヘ行った数日前に今年初の小屋入りをしている様子なので、できれば七曲がりの夏道の分かり難い所だけでも赤布が在ったらなぁ・・・なんて甘えてみたくなったりした訳であります。

    スイカの種では有りません・・・窓に集まるカメムシです

     大鳥小屋は小屋の看板によれば「タキタロー小屋」と言うのだそうでありますが、おっさんは別な名前を冠して上げたいと望む次第であります・・・その名は「カメムシ山荘」であります。
    いや、何百匹と言う単位で居る訳で、一度は箒で掃いて大掃除をしたんでありますが後から後から出て来るので諦めました。
    で、迂闊に歩くと踏みつぶして、あの独特の臭気に悩まされちまう訳で、この臭いが鼻についてこの夜の食欲は減退も良い所でありました・・・いや、ホントーに何も喰いたく無くなっちまいましてホントーは夜に喰う予定の無かった大好物のカップ焼きそばを喰っちまいまして食料計画の変更を余儀なくさせられたのであります。
    二階は温かいんでカメムシの巣窟と言う感じで足を踏み入れるのさえ憚られる有様でした・・・いや、夜寝てる時にもカメムシが這いずり回っているらしく寝袋の下敷きで潰れていたりしてそこはかと無い嫌な臭いを以東小屋まで背負い続ける事になっちまう訳であります。

     6月08日 水曜日 天下無敵の晴れ

    朝焼けに染まる以東岳と避難小屋です

     いや、大鳥池は未だ氷に閉ざされ、しかし湖岸のブナの木の新緑の緑は間違いなく初夏のそれなんであります。
    このアンバランスな景色は本当にわずかな期間しか見られない訳で、これが見たくて登って来た・・・この景色を眺めながらビールが飲みたかった訳で、目的の殆どは達成されちまったのでありました。

     
    無風・快晴で湖面は鏡のようでありました。

     4時45分起床、6時10分出発・・・いや、カメムシの臭いで吐き気がして朝飯を食うのに手間取っちまいまして出発が遅れたのであります。
    まあ普段でも朝の動作は殆どダメなタイプのおっさんでありまして時間が掛かっちまうんでありますが、この日は特に難儀しました。
    しかし荷物を背負って歩き出すと大鳥池の湖面のえも言われぬ美しさに感激し、やっぱし来て良かったぁ・・・とため息など漏らすのでありました。

    やっぱり道を探すのに苦労する訳であります・・・この先、分かりますか?

     さて、小屋の前の道標に従ってオツボ峰経由で以東岳を目指した訳でありますが、まず小屋の前から脱出不可能な訳であります・・・まぁそれ程の事でもないんですけれども、導標の先の夏道は水没している訳で、滑ったらドボンのきわどい雪の斜面からスタートしなくちゃならない訳です・・・いや、おっさんは薮を漕いで上に向ったんでありますが。
    しかし、この日の大鳥池は朝から気温が上がって、釣り人には堪らない状況でしょうねぇ・・・ハッチにライズが見られました・・・たぶん。

    1450メートルあたりで森林限界を超えて尾根の頭に出て大鳥池が見えました

     以東岳に登るにはあっち側に「直登コース」と言うのが有る訳で、登り一方のコースがキツイと評判な訳なんですが、いや、オツボ峰コースだって1500メートルの三角峰までは容赦ない登り一方な訳です。
    で、ここまでの間には大小の雪田や雪渓が有るのですが、それらに夏道を塞がれると行く先が不明になっちまう訳であります。
    で、一度は景気よく歩き易い雪渓を詰めて行ったら全面的にヤブに行き当たっちまった訳であります・・・ありゃぁ、やっちまったかぁ、と言う事で、右手に走る尾根筋に夏道が有るだろうと見当を着けて薮漕ぎに突入であります。
    いや、シャツが半袖なんでおっさんの柔肌の傷着く事夥しい訳で、嫁入りが終わっていて良かったなと・・・まず半端じゃない薮で有りましたよ。

    三角峰から先は稜線上のお花畑を行く天国の道であります。

     オツボ峰まで3時間とコースガイドは謳う訳でありますが、おっさんは三角峰で既に3時間に近い訳で、本日も亀の歩の行軍であります・・・荷物はそんなに重く無いんですぜ・・・ビールも二本減ってるし・・・推定16キロ?
    で、今までは薮漕ぎとか道探しで時間を食って来た訳ですが、稜線に出てからは写真を撮るんで前に進まない訳です。
    1600メートル前後の稜線の平行移動なんで足は軽い訳ですが、二三歩歩くとまた違う花がおっさんを呼び止める訳で,その度事にカメラを取り出しては花達と戯れる訳であります・・・いや、ホントーに天国と言うのはこう言う所なんじゃないのかと思うほどの美しさなんであります・・・いや、花の名前とはドーでも良い些末な事なんでありまして、黄色い花や白い花や紫の花が咲き乱れている訳ですよ。

    オツボ峰の三叉路方向へ続く夏道・・・半袖に風が心地良い初夏でありました

     一応知ってる花の名前でも羅列しますと、下の方では・・・カタクリ・イワウチワ・ムラサキヤシオ・タムシバ・マルバマンサク・キクザキイチゲ・・・なんかですか?
    で、上の方に来ると・・・ツマドリソウ・コシジオウレン・ミヤマウスユキソウ・ノウゴウイチゴ・ミヤマキンバイ・ミヤマギンポウゲ・イワカガミ・ミネザクラ・シラネアオイ・・・なんかですか?(知ってる名前を適当に書いてますけど)

    水場と言う立て札を見てやってきましたが、雪で埋まってました

     いや、ホントーに足が前に進まない訳です。
    這いつくばるようにしてか細い枝を伸ばしやっと花をつけているミネザクラ・・・あ、お前に会いに来たんだよ、と言ったそばから黄色いミヤマキンバイの花畑に目を奪われ、遠く残雪の山を入れ、この花畑を撮るにはどーしたら良いかと、重たいザックを背負っている事を忘れて腹這いになり立てなくなっちまったりしている訳であります・・・これだもの中々前には進みません。

    おっさんの一番好きな高嶺の花・ミネザクラです

     さて、撮っても撮っても撮り切れないし、また飽きない訳です。
    いや、一昨年ヒメサユリの真っ盛りの飯豊に登った時には二日続けて雨の為に殆ど写真も撮らずに黙々と歩き続けた,なんて事も有る訳です。
    天気に恵まれた山行は何物にも代え難い至福の時になる訳でありますが、しかし、そうそうある幸運ではないので、だからこそ足が進まなくなっちまう訳です。

    熊の毛皮を剥いだ形の大鳥池と言うんですが、何処から見れば良いのか?

     東方向は障子ヶ岳に続く稜線がずらーっと見え、大鳥池のあっち側には化穴山から桝形山に続く尾根が見事な訳です。
    で、後ろを振り返れば月山が真っ白く大きくそびえている訳です・・・ふふふ、あの高みに登ったらいよいよ大朝日方向の峰峰が見えるのか?と、稜線の上を歩きながら声に出してそれを言って見る訳であります・・・どーせ二泊三日、誰にも会わないんでありますから。

    以東岳到着でありますが、ゆっくり来たので元気です

     さて、ガイドブックでは3時間と40分と言うんでありますが、おっさんはたっぷり4時間を掛けて登って来た訳であります・・・そりゃぁ可愛い花達に呼び止められたら素通りなんて出来ませんからね。
    で、気持ちの良い岩の峰をすぎ以東岳の山頂が近づくと、寒江山から大朝日へ連なる稜線や北寒江山から三面方面への厳しそうな稜線と一望になるのでありまして、しばし山頂から見とれておりました。
    以東岳の避難小屋到着は10時10分でありました。

    冬場、良くも吹き飛ばされないな、と言う場所に建っています

     そんな訳で未だ時間も十分あるんで早い昼飯を食ってから化穴山方面へ行ってみようか?それとも狐穴小屋方向へ行って北寒江山に行って来ようか?と考えた訳です・・・しかしまずは飯だな、と。
    で、やっぱしなんでありますが、水場は雪で埋まっている訳で使えないのであります・・・あいゃぁ、手持ちは1リットルだでば。
    と、言う事で、小屋の目の前の雪渓の端っこから滴る雪解け水をなんとか受けられるようにあれこれ工夫したんでありますが、1リットルのコッフェルが満杯になるのに30分近くもかかる訳で、とりあえず昼飯用を確保した後はコッフェルを置きっ放しで出掛ける事にした訳であります。
    本日の昼飯は・・・豪華にカップ焼きそばに魚肉ソーセージ付きであります。

     で、昼飯を食って、空身と言っても合羽と少しの水くらいは持ちたい訳で、サブザックの代わりになる袋に一式を詰めて以東岳を松虫岩方向へ下った訳であります。
    で、どこかに化穴山方向への踏み跡でもあるのかと思ったら何も見つけられない訳です・・・ああ、残雪期限定のコースか?と言う事で行き先は狐穴小屋方向へ。
    以東岳から一旦下ってからは1600メートル程度の稜線をほとんど平行移動でありまして、雪はすっかり消えた稜線の夏道は快適でありました・・・植物達も先ほど出会ったものばかりなので写真も撮りませんので足は速い訳です。
    いや、ホントーのことを言うとコースタイムを大幅にオーバーしていた昨日と今日の現実から、おっさんの足が衰え著しいのかと一寸ショックだった訳であります。
    しかし、まぁ、空身で写真も撮らないとなれば・・・アレっ?カメラが無い・・・置いて来ちまったのかぁ?
    と、言う事で必然的に写真は撮れない訳で、もう義務的に歩くばかりでありました。
    しかし、ここもお花畑の天上界でありまして素晴らしいんでありますが、ホントーの花の時期はほんの少し後なのかも知れませぬ。

     正直に言うと大朝日まで行くには時間が足りないし、さりとて、北寒江山は以東岳よりも低い訳で登高意欲と言う点では一寸アレでナニな訳であります・・・と、言う事で、往復4時間弱、行ってきました、と言う感じであります・・・行かなくても良かったかな、と・・・後味が悪いのは、当たり前だけれども帰りの方がキツイんですもん。

    日が暮れて冷えて来ると靄が立ち景色が霞みました

     小屋に戻って夕暮れ時の様相になった辺りの風景など撮りつつ、出掛けに雪渓に埋めて行ったビールなど取り出しゴックンであります・・・ああ、至極の時であります。
    日中暑かった為に雪渓の融け具合が進み水は溢れて水たまりが出来ていまして、そこからポリタンクに2リットルほど確保したんでありますが、これがドー見ても薄茶色な訳で、生じゃ飲みたく無いよな・・・まっ、煮沸すれば良いか、と。

      6月09日 木曜日 A-5クラスの晴れ

    太陽は未だ昇っていない夜明け前の空です

     さて、晩飯は豪華に牛丼を食いまして、サラミとハムチーズパンと・・・いや、明日の昼飯にしようとしていたんですが期限が切れちまったので食った方が良いかと言う事で・・・夕陽を見ながらビールなど片手にやった訳であります。
    昨日と今日の二日分の缶ビールの重量は1.5キロでありますが、おっさんはこれから歳を取ってどんだけ歩みが鈍くなろうとも、どんだけバテるようになろうとも、ビールの重量だけは減らすつもりはありませぬ。
    いや、ビールも背負えなくなったらいよいよ山は止めます・・・あっ、小屋で売っている山ヘ行けば良いか?
    へへへっ、人の居ない山を目指して歩いている訳ですから財布だけ持ってりゃ何でも済んじまう山にはあんまし馴染めないですけれども。

    お陽様がチョットだけ顔を出しました

     そんな訳で昨晩は残りのショーチューも総動員して一人宴会をしているうちに星の写真を撮るのを忘れて8時頃には寝ちまいました。
    で、目覚めたのが2時49分・・・ちょっと早いんだけど、東の空はうっすら明るんでいるとも見えるし・・・ンじゃぁ一丁ご来光のご対面に行きますか?と・・・ああ、起き掛けのコーヒーは必要だよな、と言う事で、物資節約の折から一本のスティックコーヒーの素から350ミリリットルほどの薄いコーヒーを作って小屋の直ぐ上の山頂へ登った訳であります。
    いや、ショーチューを残しておくんだったと後悔したんでありますが、まっ、本日の下山は長丁場だし簡単じゃないんで飲まなくて正解だな、と。

    出ました・・・ご来光です

     さて、お陽様が出る前から空は白んできまして、なんだか竜に見える黒い雲なんかもあって、ああ、ああ言うのを見て空には竜が居るとか昔の人は言ったんだろうか?なんて思いつつ、太陽の出るのを待った訳です。
    3時過ぎにはウグイスもカッコーも鳴いているんでありますが、しかし、日の出は未だな訳で、ダウンの上下を着ていても鼻水がチョロリなのであります・・・気温は5度くらいですか?

    以東岳のてっぺんに太陽が顔を出した瞬間

     いや、3時から待っているのに太陽ったら中々出て来ないんであります。
    まっ、空はズンズン明るくなって最早出るのかと待つ訳ですが、結局顔を見せたのは4時20分頃な訳で、延々と突っ立って待った訳であります。
    で、顔を見せてからものんびりとマイペースで登って来る訳でして、朝日に照らされる大朝日岳までの稜線を撮ろうと待ち構えているおっさんとしては、お天道様には一段のスピードアップをお願いしたくなるのであります。
    結局お陽様が塩梅良く大朝日岳までの稜線を照らしてくれたのは5時近くになってからな訳で、おっさんはぬるいコーヒーをすすりながら2時間も山のてっぺんに立ち尽くしていたのでありました・・・いや、ひと月前なら凍死してたべね。

    イメージではお陽様が稜線を紅く染めるはずだったんですが

     朝日や夕陽は人間の眼で見るとキレイなんですがこれを写真にしてちゃんと見せられるのは腕が必要なんであります。
    本日、天気は申し分無し、残雪の感じも良い感じ、時刻もばっちり決まって、シュチエーションとしては最高なんでありますが、なんと言っても撮っているのがおっさんなんでありまして、まっ、出来映えは推して知るべしでありました。

    シルバニアファミリーのお家ではありません

     さて、朝日に輝く大朝日を撮る・・・は、ドーも失敗に終わったようでありまして、少し凹んじまいましたが、それでも、あの景色を二度と見られる日が来るとは思えないほどのものであった訳で、まっ、見られただけでも大ラッキーであるなと、下山に向かった訳です・・・5時50分でありました。
    以東岳の頂上には昭和九年に遭難した人の碑が立っているんでありますが、おっさんはなんだか見ず知らずの人のような気がせず、珍しく頭を下げ、これからの判りにくい道で嫌な事が起きないように助けてくれよな、とお願いなどしてみた訳です・・・うん判ったと彼は言ってくりましたよ。

    珊瑚の白砂に入道雲、ではなく、残雪に雲でした

     さて、以東岳からオツボ峰まではどうしても被写体が多くて・・・で、おっさんのいい加減な勘なんですが、登山道を境に湿地面と乾燥面に別れるのか植物が右左でがらりと違う所などある訳で、そう言うのを見つけるとカメラが出てきちまってまた進まなくなる訳です。

    来る時にも同じ場所で撮っているんですけどね、素通りはできません

     と、言う事で、お花畑が続く以東岳からオツボ峰までの道はまた時間がかかっちまった訳ですが、ここからは灌木帯やブナの急坂や雪渓の道探しに気を使いつつ下り一方な訳であります。
    いや、本気で歩けば行けるじゃん、と言う感じで、途中薮漕ぎなどしつつも9時10分に大鳥小屋到着でありました。

    大鳥池は二日間で随分と氷が溶けて湖面が見えていました

     そんな訳で大鳥小屋の外の水場にザックを降ろし休憩であります。
    ポカリスエットの粉末を持っていたので透明な水で溶かし、あんぱんを一個と魚肉ソーセージを一本食いまして燃料補給もバッチリであります。
    しかし、登りであんだけ迷ったややこしい道がすんなり行けるだろうか?
    で、嫌らしかった中途半端な融けた雪渓のトラバースは大丈夫だろうか・・・アイゼン履くのかぁー・・・と、一寸嫌な思いがよぎる訳であります。
    が、しかし、やっぱしアレです・・・案ずるよりは行くが易しと言う諺通りでして、行っちまえばナントカなる訳です。
    一番傑作だったのは、夏道を見失って薮漕ぎ直登をした箇所は、こっち側からは明確に行き先が判る訳で、へぇー・・・一度でも来た事がある人なら迷わないわな、と言う状況でありました。
    で、腐った雪の泥まみれの雪渓や崩落して来た雪隗の乗り越しも上から下に行くのは簡単なのか思ったよりも大した事は無く、ピッケルさえあればナントカなる場所ばかりでありました。
    とは言いましても、やっぱし道探しと増水した沢の徒渉や雪の乗り越しで時間は食う訳で、下山にも2時間30分を要して11時50分、泡滝ダム登山口到着でありました・・・アー疲れた、と。

     いや、以東岳なら夏場の早朝出発で日帰りでも廻れるんじゃないか、なんて声も聞こえそうでありますが、そう言うのは山旅とは言わない訳で、登山ではありますが、おっさんの趣旨とは違うもんであります。
    山道の脇に咲く花と戯れ話し込み、んじゃぁ記念に写真でも、と・・・遅々として進まぬ歩みも良いのであります。
    今回ほど山を堪能したと言う気分に浸った山はありませぬ・・・これは、やっぱし「罰当たり組」的な発想なんだろうかなぁ?と、意味不明なことを言いつつ、感慨に浸る訳であります。

     


       この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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