よたよたと、山登り


    No.97

       

     イワナづくしの宴(船形山)

         7月17日 日曜日 快晴

     久しぶりの沢であります、が、隊長からは「まっ、屁みたいな沢だから、ヘルメット要らないし、金物もロープも要らないから」と言われ、とてもお手軽な沢なのであるなと出かけたのでありました。
    なんたって、イワナを釣り上ってる間に沢は登れちまうんだから・・・んじゃぁおっさんは酔っぱらいに行くようなもんであるな、とホイホイと出かけたわけであります。

     まず小野田方面から林道を通って鳴渓小屋まで行き車を置いて朝日沢の方に走る林道を入渓地点まで歩く訳であります。
    本当なら入渓地点に荷物を下ろし車を下山地点まで戻す予定であったのですが林道に行く手を阻む大岩がありおっさんの車は通行不可能でありまして、大分手前から荷物を背負っての林道歩きとなったのでありました。
    入渓地点までは約4キロ・・・途中に熊の糞など落ちているとても野性味あふれる林道を楽しく1時間ほど歩いたのでありました。

     で、入渓地点まで行きますと・・・「あいゃぁ、心配していたっけやっぱりなぁ」と言うことで先行者の車があったのでした。
    おっさんがすり抜けをあきらめた大岩の箇所も林道の王者スズキジムニーは事もなく通過してどん詰まりまで車で入って来ていたのであります。
    いや、イワナ釣りをするのに先行者が居るというのは相当致命的なことでありまして、まず普通は殆ど釣れないお約束になるのでありました。

    やさしい渓相の朝日沢で餌の虫取りに励む千葉B氏

     さて、本日は近頃売り出し中の4人組「B-チーム」であります・・・Bは、千葉B氏をリーダーとするBチームという意味よりは、ご神体とも言われる船形山の不動岩に登っちまう「罰当たり」のBだと言われているのですが、定かではありません。
    で、千葉B氏と三浦S氏はどちらも餌釣りの名手でありまして川虫を餌にしてイワナを釣るのであります。
    その中でおっさんは、みの毛の毛針一本でありますから、まず普通は絶対に勝てません・・・いつも食っている本物の虫餌に勝るモノはないのです・・・と、言うことで、おっさんが一匹も釣れなかった言い訳はコレにてお終いです。

     
    刺身になるのか?塩焼きか?はたまたムニエルなのか?

     さて、下界は相当に暑いんだろうなぁ・・・なんて事を言いながら、本当に優しい渓相の朝日沢を、下手すれば沢靴さえ濡らすことなく釣り登っていくわけですが、やっぱしめぼしいポイントは先行者が釣り尽くしているようで、出るはずの場所で空振りが続きました。
    釣り初めてホントーにすぐ、おっさんの毛針にアタックしたイワナが居たんですけれどもコレを合わせ損なって逃がしてからは、イワナとは音信不通になり、釣るのを諦めて竿を仕舞ったのでありました・・・いや、餌づりの人の後に毛針が役に立つわけ無いでしょ?

       
    イワナの刺身って、皮をむくのがミソなんですね

     と、言うことで流石に名人が二人本気で探っただけの事は合って、テント場を見つけた頃には一通りの晩飯の材料は確保されていた訳で、たいしたもんであります。

    この度はテントは無いのでありまして、通称「小屋がけ」と呼ばれる日本古来の野宿のスタイルに則って幕営準備がされたのであります。
    いや、これはゴミ袋をガムテープでつなぎ合わせて作った千葉B氏の力作でありまして、制作費なんと30円なのだそうであります。
    おっさんはゴミ袋に入って寝たことはありますが本格的な小屋がけは初めてでした・・・まっ、防虫対策が一つの肝でありますが、夏場の沢では結構快適に寝られるもんであります。
    今回一番人気の「イワナのムニエル山菜添え」

     結局は釣ったのも捌いたのも千葉B氏と三浦S氏でありまして、おっさんはただ脇から茶々を入れて邪魔をするばかりで・・・素面だと迷惑をかけちまうので千葉B氏がさっさと缶ビールを開けてくれたのを幸いにたき火を前にグビグビと一人で飲んでいました。
    いや、紅一点のY嬢は皆が釣りをしている間に山菜を集めたりして貢献しているんですが、ホントーにおっさんは何もしないで飲んでばかりでありました。
     
    焚き火を起こし遠火でイワナを炙って薫製風の塩焼き

     夜のとばりがすっかり降りるとあたりは漆黒の闇に包まれ・・いや全然漆黒なんて事にはならなくて、空には満天の星が・・・で驚いていたら次には蛍の乱舞が見られすばらしい夜になったのでありました。

     イワナを食って、星空を眺め、蛍に驚きビールとワインをいただいて皆が寝静まってからもおっさんは焚き火を眺めておりました。
    なんだか寝るのが勿体ないというか、焚き火の炎がおっさんを引き留めて寝せ無いと言いますか、しばらく薪をくべて焚き火を勢いづかせ遊んでいました。
    いや、ナナカマドの太い幹を入れたんですけれども、何時間燃やしてもびくともせずに頑張るもんでそれならば、と言うことでなんとか燃やしたいと思って薪をつぎ込んだ訳です・・・まんず、ナナカマドの名前の由来もよく知っていたんですけれども焚き火にくべたのは初めてでした。
    いやしかし、ホントーに燃えない木でして、結局は翌朝までの10数時間を経ても燃えたという感じではなく、炙られた程度の痕跡にとどまったのであります。
    ナナカマド印の不燃建材の家・・・なんてのは流行りませんか?



      7月18日 月曜日 快晴


    千葉B氏が早起きしてイワナを釣って作った「イワナのあら汁」

     さて、朝飯の支度も殆ど全部千葉B氏が頑張ったわけで、おっさんはコーヒーを入れてもらってボケーっとしているだけであります。
    時々藪の方に入っていって朝のお勤めをする以外は体を動かすこともせず、全く役に立たないのであります・・・いや、下手に手を出すと余計にややこしくなっちまうんで自粛しているのでありますが、まっ、見守るのも役目の一つと言うことですか?
       
    30円のタープと、寝床であります

     イワナのあら汁に舌鼓を打ち、昨晩の飲み過ぎで割れそうに痛い頭を抱え出発の準備を整えて歩き出したのは8時頃でありましたか?
    本日も快晴の空の下谷間の空高くにはアマツバメの群れが飛んでおりました・・・アマツバメの故郷は遠くヒマラヤの山地と言われており、日本では高山帯や海岸の絶壁で見られることになっているのでありますが、この日は群れで見られました。

     おっさんは二日酔いの頭を抱えフラフラの状態で出発でありました。
    テント場の標高は850メートルでありまして、沢を詰め切って稜線に出る予定の標高が1360〜1370メートルなので稼ぐ標高差は500メートル前後と、まっ、大したことはないな、と読んでおりました。
    しかも渓相はとても穏やかで、隊長の説明では滝も高捲きも無くしかも沢の最後に付き物の藪こぎさえないと言うのでありますから安心です。
    標高950メートルあたりまでは沢と言うより小川でしたが

     さて、本日は釣りもせずにさっさと沢を詰め、行きがけの駄賃に前船形山を登って帰りましょう、などと言う予定な訳で、8時頃の出発でもそれが余裕でこなせるはずだったのであります・・・あくまでも予定ではお気楽であったはず、なんですが・・・。

     25000/1の地形図ではっきりと等高線が狭まってくるあたりから小さな滝やへつりが現れまして、まずまず普通の沢になってきたのであります。
    時には小さな岩場的な登も現れそれなりに楽しめる、初心者大歓迎の渓相なんでありますが、滝が無いというのは傾斜が緩いと言うことで、結構な距離を歩いているにもかかわらず標高はあんまし上がらないのであります。
    で、1000メートルくらいの場所にとても古い赤布が下がっていたので、イワナ釣り師はこの辺りから尾根に上がるんじゃないか?なんて予想してみた訳ですが、地図を読むと登山道まで一番近い付近でありました。

    沢が濁って岩にぬめりが目立ってきた犯人の片割れは硫黄の鉱泉水でした

     さて、イワナ釣り師が逃げる辺りから上流は渓相もさることながら水が悪くなり魚は住まないような、いわゆる毒水っぽくなるのであります。
    岩にはぬるぬるのぬめりが付き足下が滑り歩きにくくて神経を使います。
    で、流石に千葉隊長でありまして、このまま水が悪いままでは飲めなくなるんでと言うことで、岩の隙間から漏れていた清水を汲んで行こうと言うことでチョロチョロの清水を時間を掛けてそれぞれが汲んだのであります。
    しかし、本流の水は飲めない状態なので論外でありますが、湧き水と思われる清水も決して美味い水ではなく、船形山の山形側に面する水は概して不味いと言うのは間違いないようであります。

    こちらの流れ込みと湧き水は赤錆の鉄を含んだ水でした

     硫黄の湧き水から少し上がりますと今度は鉄分を含んで赤くなった水が流れ込みと湧き水で出ていて、成る程なぁ、これじゃぁ悪水になるわなぁ、と納得であります。
    この辺りで一同結構な疲労の色でありまして、なかなか上がらない標高と、思いの外歩き難くなった渓相に嫌気が差してきたのであります。
    で、渓が狭まるにつれ両脇から落ちてくる倒木が沢をふさぎ、殆ど障害物競争的に、ブナの倒木を乗り越えたり下をくぐったりと時間を食う割には前に進まなくなっちまった訳です。

    もっと酷いところが沢山ありましたが自分も必死で撮っていませんでした

     さて、おっさんはしゃりバテと二日酔いでヘロヘロなんで、早めに飯を食っちまって回復したかったんでありますが、一同としてはなんとかして稜線まで抜けるのが先決と言うことで頑張ったわけです。
    しかし、藪こぎより酷い倒木越えに体力も気力も消耗し、したたる汗で水は飲んでも片っ端からまた飲みたくなり、より一層体力は消耗して行く訳であります・・・いや、おっさんらは自分で言うのもナニなんですが結構体力も気力も有る方だと思うわけで、ヘタレで音を上げたのでは無いのであります。
    ズーッと先頭で引っ張っている千葉隊長が時折、自分に気合いを入れるために奇声を発していましたが、ホントにヤンダグナル倒木でありました。

    朝日沢の水源・・・源頭です

     そんな訳で沢自体ははナンと言うことも無いロープも何も出ることのない楽な沢ナンでありますが今年に限っては大雪と強風で倒れたり枝を落とされたブナの倒木が行く手を邪魔し続け、とてもじゃないけど勘弁してくれとお願いしたくなる辛さになっていた訳であります・・・まっ、これは相簡単に解消されるとは思えないので朝日沢を詰めようと思う方は予定の二倍の時間で汲むことをおすすめします・・・もしくはチェーンソーを持参か?
    さて、地図で読んでも渓がぐっと狭まった辺りを過ぎ、また緩くなったと思ったら唐突に水が消えたのであります・・・性格にメモしてないのでアレなんですが、大体1250メール辺りであったと思います。
    毎度のことなんですが、沢を詰めていて源頭を見ると感動するんでありますが、写真に収めて帰って眺めてもあんまし感動的でも無いもんでして・・・まっ、写真が下手だと言えばそれまでなんですけれども、小さな水たまりや滴のしたたりはどこも一緒で大したものでは無いですね。

     水が切れてからも沢には倒木が覆い被さり、いよいよ稜線に出るのかと言う手前ではお約束の笹の藪こぎが有る訳です。
    千葉隊長は先頭で時折気合いの奇声を発し渇を入れつつ藪を漕いで、2時少し過ぎ、ようやく稜線に出たのでありました。
    しかし、隊長以下全員が疲労困憊でありまして、予定ではご来光岩のあたりで昼飯、と言う事なんでありますがおっさんはもう歩くのがいやになってまして、早く飯を食うべしぃーと言うことで、急傾斜の賽の河原で昼飯にしてもらったのでありました。

     いや、ここからの眺めは値千金、百万両の眺めでありまして、遠くは月山が雲の上に頭を出し、眼前に黒伏山の絶壁が開け・・・おお、船形山って結構ワイルドだなぁ、と感動するのであります。
    やっぱし眺めの中に人工物・・・鉄塔とかダムとか入らないのがおっさんは好きです。
    で、ここから船形山の山頂は手が届くほど近いわけですが、片道300メートル、標高差50メートルを踏んでいこうなんて声は一つも出ませんでした。

     そんな訳で賽の河原で昼飯を食い大休止をし、沢靴から登山靴に履き替え下山を開始したのが3時10分頃でありました。
    で、バテているんで普段なら屁とも思わない登山道の下りがやけに長いのであります。
    いや、予定の前舟形に立ち寄る余裕は時間も体力も既に無い訳でして、一刻も早く文明の里に下り、風呂に入るとか、コーラを飲むとか、シロクマを食うとかしないとやってらんない感覚ナンであります・・・いや、二日酔いを割り引いても参った度は高かったわけで、お手軽なはずの朝日沢に、舐めんなよ、と、一発ガツンと食らわされた感じでありました。

     いやしかし、第一目的の「イワナづくしの宴」は滞りなく完結しましたし、バテたりとは言え朝日沢は詰め切ったわけですので、今回の山も大成功であったのは間違いないのであります・・・いや、夏はやっぱし沢でしょ?

     ナンだカンだで鳴渓小屋の下山口に着いたのは5時50分でありました・・・長い一日は終了、と。


     この話 完


    山の状況、情報は適当ですので、ご注意下さい・・・


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